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サバイバルファミリー

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映画「サバイバルファミリー」、いよいよ2月11日公開! 矢口史靖監督の記念エッセイ掲載!

定価:1,000円(本体)+税 12月15日発売


「まぜるな危険」

 塩素系の洗剤などにある注意書き「まぜるな危険」。酸性の洗剤と合わせて使うと塩素ガスが発生して、とても危険だと書いてある。じゃあ塩素ガスってなんなのだろう? と調べてみると、かつては殺戮兵器として戦争にも使われた猛毒だという。吸い込むと呼吸器系、中枢神経系にダメージを与え、最悪の場合は死に至る……。そんなものがスーパーで普通に買えます。たいへん怖いので、塩素系洗剤を使うときは注意しましょう。
 こんな話から始めたからといって、決して毒ガスが好きというわけではありません。相反する二つのものを混ぜたときに起きる化学反応で、想像もしない結果が生まれる。物語を作るときにも、それが当てはまるような気がするのです。僕がかつて作ってきた作品は「まぜるな」要素が多分にあります。男子高校生×シンクロナイズドスイミングしかり、女子高生×ビッグバンドジャズしかり。一見、突飛とも思える掛け合わせが、誰も見たことのない面白い物語を生む。この法則を知っていて取り入れたというよりは、作っているうちに気がつき、だんだんと味をしめたといったほうが正しいでしょう。
 二〇一二年公開の映画『ロボジー』を発想したきっかけは一九九六年の暮れのことでした。ホンダ製の二足歩行ロボット「P2(ASIMOの前身)」が突然テレビに登場したのです。その瞬間、僕の目はテレビに釘づけ。それは、自立した二足歩行ロボットが初めて世界にお披露目された瞬間でした。
 いつか映画にならないか、と構想を練っているうちに月日は過ぎて……気がつくと「P2」は進化形の「ASIMO」になっていました。小学生のような、小ぶりでチョコマカと走り回るその白いロボットを見たとき、こう思ったのです。「まるで人みたいにスムーズな動きだ。もしかしてロボットの調子が悪い日は、中に子役が入ってたりして……」と。
 もちろん意地悪な冗談ですが、この発想が『ロボジー』の始まりでした。しかし、ロボットと子供のハイブリッドだとちょっと当たり前すぎる。いっそ、ロボットとは最も遠い存在……そうだ、老人にしてみたらどうだろう。腰痛持ちで、あまり機敏に動けないほうが、逆にロボットらしく見える。しかも偏屈で目立ちたがり屋の独居老人。こんな人をロボットの中に閉じ込め、偽装を貫かなければならなくなるとしたら……! そんなふうにして物語はできてゆきました。


そして最新作『サバイバルファミリー』は……。

 二〇〇三年の真夏、アメリカの北東部八州とカナダ南東部という広い範囲で大停電が発生しました。明かりは消え、地下鉄やエレベーター、エアコンも止まり、都市機能は完全に麻痺。五千万人に影響が出たといわれています。完全復旧するまでに二日かかり、損失額は約七千億円。たかだか二日の停電で……と驚きますが、それだけ電力に頼って世の中が動いているということですよね。……ムムッ! そこでまたいけないことを思いつく。だったら、いっそ電池もバッテリーも、身の回りの電気を全部なくしてしまえ! 浄水場、下水処理場は止まり、ガスは供給されなくなり、電車も車も動かない。物流も電波も、SNSも何もかもがフリーズ。水も食料も枯渇する東京で、果たして生き残ることはできるのか?
 次はこの電気消失パニックと、どんな主人公を掛け合わせるのか。たいていのディザスタームービーでは専門家がその知識を活かして生き延び、困っている人々を助けたりしてヒーローになっていく。でもそれでは当たり前すぎる。では政府関係者? 自衛隊員? 違う。こんな世界になったら真っ先に野垂れ死にするような、最もサバイバル向きではない人がいい。そうだ、駄目駄目な一家だ。自分ちのブレーカーの位置さえ知らないお父さん、魚を捌くこともできないお母さん、インターネットですべてを知った気になっている息子、スマホ依存の娘。家の中にいてもバラバラなポンコツ一家が、突然電気のない過酷な世界に放り出される。こんな家族、生き延びられるわけないよね! ……だからこそ面白くなると思うのです。これが「まぜるな危険」の法則です。
 僕は普段、映画を作るのが仕事ですが、映画公開と同時に、我流ながら小説も書いています。映画のシナリオを書くことと小説の執筆にはかなり技術的な違いがあって、異種格闘技に参戦したように戸惑います。ですが、小説のフィールドにはまた別の楽しさがあって、野原に解き放たれた犬のように無邪気になってしまいます。上映時間とのバランスを重視する映画と比べて、小説のほうがたっぷりこってりと内容を描き込めるからです。
『ロボジー』(集英社文庫)と『サバイバルファミリー』(集英社文芸単行本)。それぞれの化学反応がどんな結果になっているか、映画と小説、どちらも楽しんでいただけると嬉しいです。

(「青春と読書」1月号[2016/12/20発売]より転載)


映画「サバイバルファミリー」
2017年2月11日公開
原案・監督・脚本/矢口史靖
出演/小日向文世 深津絵里 泉澤祐希 葵わかな 他
製作/フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ
企画・製作プロダクション/アルタミラピクチャーズ

http://survivalfamily.jp/


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