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担当編集のテマエミソ新刊案内

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慈しみの女神たち(上)

慈しみの女神たち(下)

  • 紙の本

『慈しみの女神たち(上)(下)』著者:ジョナサン・リテル 訳:菅野昭正、
星埜守之、篠田勝英、有田英也

上巻 定価:4,500円(本体)+税・下巻 定価:4,000円(本体)+税 5月26日発売

Les Bienveillantes
By Jonathan Littell

あらすじ

1941年独ソ戦が口火を切る頃、ナチスの保安諜報部の将校アウエはウクライナに派遣され、ジトーミルやバビ・ヤールの虐殺に立ち会う。殺人行為のストレスや憤りが兵士たちをサディストに仕立ててゆくさまを目にし、冷静で温厚な将校であるアウエも神経を衰弱させてゆく。もとは法律を志す文学青年であったアウエは、その後カフカスの少数民族調査にも携わるが、中立的な立場を貫いたため上司の怒りと失望を買い、激戦下のスターリングラードへ転属させられてしまう。そこで頭に銃弾を受けて倒れるのだった。ベルリンの病院で死の際から生還し、最愛の女性である双子の姉と再会したアウエ。怪我のわざわいか、抑圧されていた感情が沸き立ったのか、姉への叶わぬ愛を求めて猥雑な妄想にとらわれるようになる。そして休暇を兼ねてアンティーヴに住む母と義父の館を訪れ、帰途につく間際、惨殺死体となった二人をアウエは発見するのだった……。(上巻)

1943年、アウエは強制収容所でのユダヤ人労働者の生産力向上の任務を与えられる。収容所視察で目にしたのはダンテの描いた地獄のような光景だった。改善策を練り上げ実行しようとするが、国家の枢要に渦巻く陰謀の前で為すすべがない。ベルリンでは英米軍の空爆が激化、ユダヤ人労働力が急を要する事態となり、アウエはハンガリーでのユダヤ人問題解決に携わる。だがブダペストで捕えられるユダヤ人たちは移送の悪状況もあり労働力としてほとんど無価値だった。アウエを悩ませるもうひとつの種が、両親の殺害事件の容疑者として彼を執拗に追う刑事二人、そして事件以後行方不明の姉ウナだった。アウエにとって最後の仕事となるアウシュヴィッツ退却の悲惨と混沌、ウナへの愛の結末、刑事との決着、そしてヒトラーとの最初で最後の対面――ドイツが敗戦へと向かうなか、アウエが生きのびた恐るべきドラマの終局が怒涛のごとく描かれる。(下巻)

 「わたしは自分が悪魔であるとは思っていない。わたしがやったことについては、いつだって理由があったし、よいか悪いか、それは分からないが、いずれにせよ人間的な理由があった。殺す者は、殺される者と同じように人間なのであり、それこそが恐るべきことなのだ」――ひとりの老人のセンセーショナルな告白から始まるこの小説は、かつて自らの手で数多の命を奪ったナチ親衛隊の将校であり、今は変名を使ってフランスで老いた日々を暮らすマックス・アウエの回想の物語という形式をとっています。

 当時わずか三十八歳の著者ジョナサン・リテルが四か月で書き上げたこの長編小説(日本語版で原注、地図なども含めると上下巻合わせて1000ページ!)は、フランスで刊行直後から大ベストセラーとなり、2006年のゴンクール賞とアカデミー・フランセーズ文学大賞のW受賞という初の快挙を成し遂げました。NY生まれの著者は幼い頃に両親と渡仏。アメリカとフランスで育ち、人道救援組織のメンバーとしてボスニアなどの紛争地域で活動したのち、現在はスペインで暮らしています。アメリカ人の作家がフランス語で書いた小説としても話題を呼んだ作品です。

 老人の衝撃的な告白がなされるプロローグで幕をあけた後は、ひたすら残酷で陰惨で目を覆いたくなる戦場のリアルな描写が続きます。本作自体は賛否両論をまきおこしていますが、膨大な資料を読み込んでいる点では一様に高い評価を得ており、史実を織りいれて小説にした試みは斬新で、実在の親衛隊将校を二百人近く登場させながら、ナチス・ドイツの過酷で混沌とした戦争の内側が暴かれてゆくさまには思わず引き込まれます。主人公はじめ将校たちの、大量処刑を前にした苦悩。麻痺してゆく人間性。戦場の地獄のさなか、死と性が切り離せない人間のあがきが徹底的に描かれ、その生々しさは小説の域を超えた凄まじいリアリティをもって私たちの心に響いてきます。

 またこの作品は「トッカータ」「アルマンド」「メヌエット」など舞曲の名がタイトルになった7章で構成されていて、ときにグロテスクともいえる過激な表現にあふれているのに、どこか優美で規則的なリズムとメロディが流れているよう。

 世界中で「かつてない小説」と評されているこの作品、ぜひ体験してみませんか。

(編集Y)


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