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担当編集のテマエミソ新刊案内

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虐待 コクウィットラム連邦警察署ファイル

  • 紙の本

『虐待 コクウィットラム連邦警察署ファイル』著者:サンドラ・ラタン 訳:中井京子

定価:1,000円(本体)+税 1月20日発売

等身大のアラサー女刑事、アシュリンが
現代の闇、"虐待"の真実へと深く切り込んでいく

 シリーズタイトルにある"コクウィットラム"は、カナダのバンクーバー市の東に位置する市の名前。コクウィットラム市、ポート・コクウィットラム市、ポート・ムーディ市の三市が隣接して"トライシティーズ"と呼ばれており、消防など多くの公共サービスを共有しています。ただし、ポート・ムーディ市には独自の警察が存在する、というややこしい状態なのです。 作者のサンドラ・ラタンは、この"コクウィットラム連邦警察署ファイル"シリーズで、コクウィットラム市、ポート・コクウィットラム市で警察業務を行うRCMP(カナダ連邦警察)に、ポート・ムーディ市の合同管轄権も与えて、さらに複雑にしています。入りくんだ管轄権の問題によって、激しい縄張り争いが生じ、捜査の妨げになります(これは実際にも大きな問題になっているらしいです)。

 このRCMPで働く刑事3人が主人公です。アラウンド30と思われる美人の女刑事、アシュリン・ハート。アシュリンの恋人で同居している刑事、クレイグ・ノーラン。カナダ先住民族の係累で口が悪くけんかっぱやいテイン。シリーズ1作目の『放火 コクウィットラム連邦警察署ファイル』ではクレイグが中心でしたが、今回の主役はアシュリンです。 思わずカッとなるような嫌味を連発する上司、あまりにも無能なくせにプライドだけは高い同僚(隣接する他署の無能刑事とは管轄権の事情によって現場でしょっちゅう鉢合わせします)、捜査妨害ぎりぎりの行為を続ける弁護士と、次から次へと"敵"があらわれます。「私がもし男だったらそんな言い方をするの?」とムカつく心を抑えきれず、つい言い返してしまって火に油を注ぐこともたびたび‥。いまだに男社会である警察で奮闘するアシュリンの毎日はひとりの働く女性として共感できるシーンがたくさんあります。

 いっぽう、同僚であるクレイグとの恋も波乱続き。担当事件は違いますが同じ部署にいるふたり。お互いに相手の事件は気になるし、相手が事件にのめりこみすぎると気が気ではないけれど、自分が心配されると余計なお世話とはねつけてしまう。つい捜査に熱がはいると家にいる時間が短くなる、そしてすれ違いと誤解の重なり。職場恋愛はどこでも難しい。

 そんなアシュリンの職場、恋愛での葛藤の日々をベースにしながら、今回扱われる事件は虐待。アシュリンはテインと組んで、4歳の男の子の撲殺死体が見つかった事件に挑みます。いっぽうクレイグは10年前におきた少女惨殺事件の服役囚で少女のボーイフレンドだった男が判決に不服を訴えているという件の再調査をまかされます。やがて2件とも痛ましい虐待事件へと全貌が明かされていくのですが、気づいていながら何もできない公的機関や近隣の人々など事情は日本と変わりません。サンドラ・ラタンは問題行動を起こす子供たちための特殊教育現場で働いており、多くがとても不幸な家庭で育っていることを指摘しています。事件のディテールは、実際に彼女が目にしてきたことからインスピレーションを受けていると思われます。1作目の『放火~』では、元パートナーが放火捜査官だったことから得た知識を存分に生かしたサンドラ。豊富な知識と実体験を生かしたサンドラの筆致にはリアリティがあふれています。新しい時代の警察小説と評価が高い本作、ぜひ手にとっていただければと思います。

(編集Y)


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