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レンザブロー インタビュー

社会学研究者 古市憲寿さん

小説のような社会学

 すらりとした長身に、リラックスしたファッションと笑顔。27歳、気鋭の若き社会学研究者は、一見するとごく普通の大学生という印象だ。しかし、いざ話し始めると、油断ならない雰囲気に一変する。この「ゆるさ」と「鋭さ」のバランスが、著書にも活かされているようだ。

 東大大学院修士課程在籍中に、知人の誘いでピースボートに乗船。その時の経験があまりに面白く、修士論文として提出。これをもとにした新書『希望難民ご一行様』を2010年に出版し、大きく注目された。さらに、昨年出版した『絶望の国の幸福な若者たち』は、「不況や格差社会と叫ばれるが、当の若者たちはそこそこ幸せ」と、これまでの「大人による」若者論に異を唱えるような内容が反響を呼び、TV出演のオファーも受けるなど注目を集めているが、本人はいたって飄々とした様子だ。『絶望の国の~』についても、もとは「趣味で書いていた、日記みたいなもの」だと言う。
「最初に大きな主義主張があったわけじゃないんです。ただ、当時の違和感を、日記みたいに書いた。あの頃、不況や若者の就職難という状況を受けて、『日本の若者はなぜ立ち上がらないのか』と問われることが多かった。特に全共闘世代の方は、学生や若者はデモをして社会を変えるものだと考えているふしがあり、そのことへの違和感が大きくありました。それに、どうして若者だけが立ち上がらないといけないのか」

絶望の国の幸福な若者たち 古市憲寿

 

古市憲寿さん

【プロフィール】
古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。
慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。専攻は社会学。有限会社ゼント執行役。
著書に『希望難民ご一行様』『絶望の国の幸福な若者たち』『遠足型消費の時代』『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』がある。

撮影 高橋依里

 当事者目線で書かれる古市さんの若者論は、最近、2007~08年頃に盛り上がった若者の「反貧困」論とも一線を画する。
「反貧困の議論は、メディアが煽りすぎたんです。本当は、ミドルクラスの危機感に発している動きだった。メディアの人間を含めたミドルクラスが、自分達の危機感を若者に表象させていたという印象が強い。そもそも、『当事者』の筆頭だった雨宮処凛さんや赤木智弘さんも、当時すでに30代で、若者と呼ぶには違和感があった。つまり、若者論という伝統的なフォーマットに組み込まないと、30代の格差や貧困を日本では論じられなかったんです」
 30代までを「若者」として語る動きは、ニートやフリーター問題の浮上とともに目立ってきたが、そこには「若者」を延長させて、そのための予算をとりたいという行政の思惑が関与していたという。また、いまの日本が「大人になる必要のなくなった社会」であることも要因だと指摘する。
「昔なら、わかりやすい大人のモデルがあった。就職して結婚して子育てをし家族を養う、というもの。今はそのモデルが壊れつつあるし、モデルにならうメリットもなくなってきている」

 そんな今の日本社会で、若者たちの新たな拠り所として古市さんが提唱しているのが「ムラ」=承認の供給源となる共同体である。『絶望の国の~』に詳しいが、経済的に恵まれなくても非正規雇用でも、地元やネット上などに同じような仲間がいて承認を得られれば、それなりに幸福を感じ現状に満足できる、というものだ。論旨は違うが、『希望難民ご一行様』では、目的を持ってピースボートに乗船したはずの若者たちが、そこで「居場所」を得て、満足してしまう状況が詳細なルポとして書かれている。

 こうした古市さんの著書は、リアルな若者論として注目される一方で、「社会学の客観的論考ではない」「現状を示すだけで提言がない」といった批判も受けているが、本人はやはり飄々としていた。
「お世話になっている本田由紀さんなどがやっているような政策提言や啓蒙をするのは、社会学というよりは政治や行政の領域。もちろん、それはそれで必要なことだと思います。ただ日本の社会学って、伝統的に文学性が強いんです。客観的な社会科学とは言い難いものも多い。僕は、それでもいいと思っています。完全にフィクションの小説ではないけれど、統計などの客観的資料の力を借りて、現代社会を物語として提示する、それでいいと。小説で世界は変えられないと思いますが、読んだ人の気持ちがちょっと変わって、その人が何かコミットして結果的に世の中が変わることはありますよね」
 自分の著書をはじめ、研究者の仕事は、人を不快にさせる面もあると考えている。
「僕の本を読んで、知らなくても良かったことを知ってしまった、自分が幸せだと信じていた世界が揺るがされてしまったという人がいるかもしれない。『今ここにある世界』が普通じゃないと示すことも、研究のもつ役割のひとつ。揺るがされるのは悪いことじゃない。それで見えてきた新しい世界も、楽しめたらいいと思っています」

 
映像化コーナー

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