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レンザブロー インタビュー

作家 内田洋子さん

写真のキャプションを書くように

 会った瞬間に迎えられる、やわらかな笑顔。
「イタリアで道を歩いていて、イタリア人からよく話しかけられるんです」
とは、さもありなん。初対面の内田洋子さんは、思わずこちらを無防備にさせるおおらかな空気をまとった人だった。

 昨年刊行された『ジーノの家 イタリア10景』は、日本エッセイスト・クラブ賞と講談社エッセイ賞をダブル受賞、イタリアに暮らすごく普通の人々の日常を伝える10篇のエッセイが収められる。
 行きつけのバールで小耳に挟んだ警官の話に興味を持ち、ミラノの無法地帯に出かけたり、行方知れずになった知人の犬を奪還する現場に立ち会ったり、「これ、本当の話なの?」とよく聞かれるというのも頷ける、上質の短編小説のような作品群。実際、編集者から「小説にしませんか?」という提案もあったという。
「私は小説家ではありませんから、事実より胸を打つフィクションは書けないんです。なるべく写真のキャプションを書くような気持ちで、丁寧に事実を伝えるようにしています」

ジーノの家 イタリア10景 内田洋子

『ジーノの家 イタリア10景』
文藝春秋刊 定価:1,571円(本体)+税

 

内田洋子さん

【プロフィール】
内田洋子(うちだ・ようこ)

1959年神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。
UNO Associates Inc.代表。2011年『ジーノの家 イタリア10景』でエッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を受賞。
著書に『ジャーナリズムとしてのパパラッチ イタリア人の正義感』、『マンマミア 23人のお母さんを通して知るイタリア』、共著に『イタリア人の働き方 国民全員が社長の国』、翻訳書に『パパの電話を待ちながら』などがある。
「イタリア式恋愛術」を「kotoba」(集英社インターナショナル)に連載中。
「すばる」7月号(6月6日発売)より新連載開始。

(C)Julie Pisu

 これまで、イタリアに関する新書を多数刊行してきた内田さんの、イタリアとのそもそもの出会いは、四十数年前。「太平洋を渡っていくような人に」という思いから祖父が名付けた<洋子>という名前のまま、外国に興味を持つ。「英語、フランス語を選択する人が多いだろうし、イタリア人俳優のジュリアーノ・ジェンマもかっこいいし」と、軽い気持ちで東京外国語大学のイタリア語学科へ。落第が当たり前というハードな授業をくぐり抜けながら、企業の通訳のアルバイトやナポリへの留学など<実践>でイタリア語を磨いていく。外資系銀行、新聞社などを経て、ミラノにわたり通信社業を起業。以来、約30年、現地のニュースを日本に配信しながら、たった一人で事務所を持続させている。
「イタリア人に関するエッセイと言っても、例えば<ジーノ>という名前を<中川さん>に置き換えると、日本でも同様のことはあるわけです。国が違っても全て<人>の話ですから。イタリアに行ったことがない方や、特に興味のない方たちに伝えるにはどうしたらよいのか、気をつけて書いたつもりです」
 かつて、俳句に接し「読者の気持ちがあって完結する書き方」があることを知った。通信社業に長く携わる者としての<材料、部品を提供する>という気持ちも、常に頭にある。
「読んだ方が、どういう気持ちを持つかというところで、私が書いたものが一つのお話になるとすれば、感情を私の言葉で置き換えるのは驕りではないか、と」
 その言葉通り、エッセイでは内田さんの発した言葉にはカギカッコすらなく、心情描写はほとんどない。著者が前面に押し出されず、厳選された言葉によって与えられる情報と事実に、読み手のイメージは無限に広がっていく。
 好奇心の赴くまま、どこへでも出かけることを厭わない行動力、前向きでやわらかい心、そして初対面の相手にさえ身の上話を打ち明けさせてしまう天性のコミュニケーション能力。本書は、それらが積み上げられ凝縮された<普通の人々の事実>の宝庫である。

 今日もミラノの街角で、内田さんは誰かと話し、誰かに話しかけられ、魅力的なエピソードのコレクションを増やしているに違いない。

 
映像化コーナー

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