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浮雲心霊奇譚 呪術師の宴

浮雲心霊奇譚 呪術師の宴

浮雲心霊奇譚 呪術師の宴

神永学 著
2019年2月26日発売
ISBN:978-4-08-771175-2
定価:本体1300円+税

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神楽坂の武家屋敷に招かれた、赤い瞳の憑きもの落とし浮雲と、呉服屋の倅、八十八。 山伏、巫女、傀儡師ら、屋敷には幾人もの霊媒師が集められ、嫡男・浩太朗の除霊を依頼される。 しかしその直後、一同の目の前で浩太朗が殺された。 そして一人、また一人と死者が……。 近藤勇、土方歳三、沖田宗次郎も活躍! 好評シリーズ第五弾、初の長編!

【書評】評者:末國善己(すえくに・よしみ) 文芸評論家

デビュー15周年、さらに進化する神永学の傑作時代活劇!
『浮雲心霊奇譚 呪術師の宴』



 今年、神永学はデビュー15周年を迎える。

 会社勤めをしながら新人賞に応募していた著者だが、受賞にはいたらず記念のつもりで『赤い隻眼』を自費出版しようとした。これが編集者の目にとまり、2004年10月に同作を改稿した『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』でデビューする。近年は新人賞ではなく、小説投稿サイトや同人誌活動が評価され、商業誌デビューするエンターテインメント作家も増えている。著者は、その先駆者の一人といえる。

 赤い左目を持つ大学生・斉藤八雲が心霊事件に立ち向かう〈心霊探偵八雲〉は、シリーズ化され大ヒットする。その後、著者が、伝説の怪盗が難事件に挑む〈怪盗探偵山猫〉、取調べ専門部署に所属する偏屈な数学者を主人公にした〈確率捜査官 御子柴岳人〉、肉体派の真田と頭脳派の黒野が、未来に起きる殺人を予知する装置クロノスシステムが告げた死を回避すべく動く〈天命探偵 Next Gear〉、戦国時代を舞台にした伝奇小説〈殺生伝〉など、人気シリーズを次々と送り出したことは改めて指摘するまでもないだろう。

 幽霊が見える赤い眼を持つことから八雲のご先祖と思われる浮雲が活躍する〈浮雲心霊奇譚〉も、著者の代表作の一つである。浮雲が、絵師を目指す呉服屋の息子・八十八、試衛館の近藤勇、土方歳三、沖田宗次郎(後の総司)、色街に暮らす玉藻らと共に奇怪な事件を解決しながら、宿敵である狩野遊山と戦うシリーズは、幽霊や呪術を描くホラーとしても、超自然現象が存在することを前提にして、不可能犯罪を合理的に解決する本格ミステリとしても、土方や近藤が派手なチャンバラを繰り広げる活劇としても秀逸なので、まさに娯楽時代小説のあらゆる要素が詰め込まれているといっても過言ではない。

『赤眼の理』から始まるシリーズは、『妖刀の理』『菩薩の理』『白蛇の理』と連作短編形式で書き継がれてきたが、最新作『呪術師の宴』は初の長編であり、怪奇現象も、複雑に入り組んだ謎も、事件の背後にある陰謀も、浮雲たちが戦う敵もパワーアップしている。

 神楽坂にある武家の堀口家で、心霊現象が起きた。堀口家は、山伏、巫女、陰陽師、傀儡師など何人もの霊媒師を集め、近藤に頼まれた浮雲と相棒の八十八もそこに加わっていた。

 霊媒師たちは、蔵の中に作られた檻に閉じこめられている浩太朗に会いに行くが、蝋燭が消えた一瞬の間に、密室状態の一画にいた浩太朗が殺されてしまう。だが事件は終わりではなく、堀口家に関係する人間が一人、また一人と殺されていく。堀口家に一枚の絵が届けられた頃から、嫡男の浩太朗が幽霊に憑かれたことがわかり、呪いの絵を描いたのが遊山である可能性が浮上するが、なぜか浮雲は積極的に動こうとしない。八十八は、巫女の朱葉らと事件を追うことになる。

 ミステリには、黒幕が手を汚さず第三者に犯罪を実行させる“あやつり”と呼ばれるトリックがある。ほかのトリックと同じく“あやつり”も終盤まで隠されることが多いが、著者は堀口家の幽霊騒動の裏には黒幕がいると、早い段階で表に出している。ただ本書は、黒幕を捜せば解決するような単純な構成にはなっていない。複雑な因果の糸がからむ先に二転三転する展開があるので、事件の真相も、物語の着地点も最後まで見えないはずだ。

 黒幕は、人間の心の中にある闇や弱さをついて、人を意のままに動かそうとする。こうした弱点は誰もが持っているだけに、読者は登場人物たちの抱える葛藤がリアルに感じられるだろうし、自分の心にある“闇”と向き合うこともあるのではないだろうか。

 浮雲の過去の一端が明かされ、浮雲と遊山の意外な関係も指摘される本書は、物語のターニングポイントとなっている。ラストには、浮雲が実際に起きた大事件にかかわることも暗示されているようで、歴史小説の風格も持ち合わせたシリーズの今後も楽しみである。

浮雲心霊奇譚シリーズ 特設サイトはこちら >

著者プロフィール

神永学(かみなが・まなぶ)
1974年山梨県生まれ。日本映画学校(現日本映画大学)卒。 2003年『赤い隻眼』を自費出版。同作を大幅改稿した『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』で2004年プロデビュー。
「心霊探偵八雲」の他に「浮雲心霊奇譚」「天命探偵」「怪盗探偵山猫」「確率捜査官 御子柴岳人」「殺生伝」「革命のリベリオン」などシリーズ作品を多数展開。他に『イノセントブルー 記憶の旅人』『コンダクター』『悪魔と呼ばれた男』がある。

浮雲心霊奇譚 呪術師の宴

浮雲心霊奇譚 呪術師の宴
神永学 著
2019年2月26日発売
ISBN:978-4-08-771175-2
定価:本体1300円+税

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