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平成犬バカ編集部

平成犬バカ編集部

平成犬バカ編集部

片野ゆか 著
2018年11月5日発売
ISBN:978-4-08-771165-3
定価:本体1600円+税

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人生の崖っぷちに立たされたひとりの男が起死回生をかけて立ち上げたのは、この国初めての日本犬専門雑誌だった──。激動の犬現代史を、犬バカが集まる『Shi-Ba』編集部を軸に追う、渾身のノンフィクション。

「バカ」がつくほどの犬好きが集まった編集部の奮闘記──片野ゆか著『平成犬バカ編集部』インタビュー

犬と暮らせることが
いかに幸せかを伝えたい

『愛犬王 平岩米吉伝』『ポチのひみつ』『北里大学獣医学部 犬部!』『ゼロ! こぎゃんかわいか動物がなぜ死なねばならんと?』(集英社文庫は『ゼロ! 熊本市動物愛護センター10年の闘い』に改題)等々、犬に関する著作を精力的に執筆されている片野ゆかさんの新刊は、ズバリ『平成犬バカ編集部』。「バカ」がつくほどの犬好きが集まった犬の専門誌『Shi-Ba』が創刊されたのは平成十三(二〇〇一)年。折しも、それまでの昭和の飼い主と犬にとって環境が大きく変化を遂げる時期でもありました。雑誌づくりを軸に犬三昧の日々を歩んだ「犬バカ」たちの足跡をたどりながら、激動の「犬現代史」に挑んだ片野さんに、現代の犬事情についてうかがいました。
聞き手・構成=増子信一/撮影=露木聡子

外飼いから室内飼いへ──飼い犬の環境変化

──昭和から平成になって、飼い犬の環境が大きく変わったということですが、片野さんご自身の飼い犬歴はどのようなものでしょうか。

 実家は東京の世田谷で、小さい頃はまだ周りに畑が残る田舎っぽいところでした。両親は大の犬好きで、それまで何頭も犬を飼っていました。私が物心ついて最初に暮らしたのはグレイハウンドでした。幼稚園から中学生卒業ぐらいまで一緒に暮らして、すごくかわいがっていたんですけど、年を取って弱ってきたので、家のなかに入れてあげようかどうしようかと迷っているうちに亡くなってしまいました。

──当時は外飼いがふつうで、室内で飼うとしてもチワワやマルチーズなどの小型犬がほとんどで、グレイハウンドのような大型犬を家のなかで飼うことはほとんどなかったですね。

 そうなんですよ。室内に入れて犬がほんとうに喜ぶのか、やはり慣れた犬小屋のほうがいいんじゃないか、と両親はずいぶん迷っていたようです。
 私は子どもだったので、えっ、家のなかにワンコを入れられるんだ、すごい楽しみだなと思っていたんです。結局そのチャンスがないまま亡くなってしまったので、二重に残念でしたね。

──その後は?

 その犬があまりにもいい子だったので、すぐに次の犬を飼おうという気にはならなくて、しばらく途切れていました。ようやく、二十代になって一人暮らしをするようになってから、ミニチュア・ダックスフンドと暮らし始めました。

──室内飼い?

 そうです。たしか平成六、七(一九九四、九五)年くらいだったと思いますが、その頃はもう家のなかで飼うのが当たり前な感じになっていましたね。
 犬と暮らそうと考えたとき、候補にあがったのがビーグルとミニチュア・ダックスフンド、それから柴犬でした。結局ミニチュアダックスに決めましたが、どの子を選んだとしても家のなかで飼おうと思っていました。

──柴犬も室内で飼うイメージでしたか。

 ええ、自分のなかではそうでしたね。どうしてそう思ったのか、はっきりした記憶はないんですけど、その頃にはファッション雑誌のグラビアなどで、有名なスポーツ選手がスタンダードプードルとリビングでなごんでいる姿などが、ちょっとハイソな感じで紹介されていました。ゴールデンレトリバーのような大型犬でも室内飼いするというのは、ある程度広まっていたように思います。

──家のなかで飼ってみて、いかがでしたか。

 四六時中一緒にいますから、犬に対する発見がものすごく多くて、ある意味ちょっと子育てみたいな感覚もありましたね。わからないことが出てくると、当時はインターネットが普及していなかったので、本や雑誌を片っ端から調べました。

──その子はいつまで?

 平成二十三(二〇一一)年の一月までいました。十七歳九カ月でした。ちょっと病気もしていたのですが、家でふつうに看取ることができました。

──東日本大震災のふた月前ですね。その次は?

 茨城の愛護センターに収容されていた子で、震災の年の秋に動物愛護団体の譲渡会を経てうちに来たんです。その時点で、推定一歳でした。一見子犬みたいなんですけど、実は一回出産の形跡があるって獣医さんにいわれて。実際、ちょっとおっぱいをあげていたのかなというような、お腹のたるみとかがありました。一体どこをどういうふうにめぐって生きてきたのか……。

──犬種は?

 甲斐犬みたいな色の和犬のミックスなんですけど、耳が大きくて、顔だけ見るとコーギーみたいなところもあって、何か和と洋が混ざったような感じなんです。よく洋犬は人なつっこくて和犬は程よい距離感があるといわれますけど、うちの子はすごく甘えん坊なところがあるかと思うと、自分は自分という頑固なところもある。性格も和と洋が混じった感じです。

──その子はまだ元気で?

 はい。もう溺愛しています(笑)。

動物にも個別の意識がある

──平成になってからの変化がいろいろと書かれていますが、柴犬の顔が丸くなってきたというのには驚きました。

 特に純血種の場合は、プロによるブリーディングの影響力が大きくて、顔形や体形が時代によって変わることがあります。本来の柴犬は、耳がピンとして顔も三角という感じでしたが、いまは丸いほうが親しみが湧くということで、そちらのほうが好まれる。同時に性格や気質も丸くなっています。
 飼い主自身は、うちの子はかわいいと思っていても、他人からは顔や態度がキツそうだと怖がられてしまうという悩みがけっこうあったんです。時代のニーズに応じて、親しみやすい顔に変化していったのだと思います。

──犬と一緒に旅行へ行くというのも、平成になってからの新しいスタイルだそうですね。

 自動車に犬を乗せるというのはよくありましたが、泊まりがけで出かけるという発想は昭和にはなかったですね。まず、犬が泊まれるところがなかった。いまは犬連れの宿泊客を受け入れるペンションや旅館も増えています。やはり家で留守番をさせているより、一緒に行ったほうが何倍も楽しいですからね、ほんとうに。

──飼い犬の避妊去勢手術も、平成十二(二〇〇〇)年頃から広まり始めた。

 平成の中期以前までは、獣医さんでも手術をやる方はあまりいなかったと思います。なぜかというと、当時は、獣医師のあいだでも手術した場合のメリットとデメリットの判断基準について意見が割れていたんです。もちろん、育てられない子犬が生まれてしまうのは、その子たちにとってかわいそうだという愛護寄りの考え方の獣医さんもいましたが、その頃は少数派でした。
 現在では、生後一年未満で避妊去勢手術をすると、乳がんの発生率が何パーセント抑えられるとか、病気予防やストレス緩和につながる医学的なデータがそろっていて、獣医師会でも手術を推奨しています。
 飼い主も、無責任な出産をさせないとか、病気のリスクについて考える人が多くなった。特にメスの場合は乳腺腫瘍や子宮がんなどになる確率が高く、死亡原因の上位にもなっています。そういうこともあって手術が当たり前になってきました。

──飼い主自身も積極的に情報を得ているわけですね。

 インターネットの普及によって、いろいろな情報を短時間で得られるようになったのは、すごく大きいと思いますね。今、譲渡会とか地域猫の保護の話などが多くの人に知られるようになりましたが、インターネットがなかったら、動物への意識はこれほど劇的に変わらなかったはずです。
 たとえば子犬を五頭保護して、飼い主を見つけたい、というとき。昭和の時代だったら、ご近所を回るとかポスターを貼るぐらいしかなかったじゃないですか。それが平成十二年を過ぎたあたりから、インターネットで情報発信をすれば、犬を飼いたいと思っている人とつながることができるようになった。寄附金を集めたり、医療費の支援を呼びかけたり、ネットワークづくりが簡単になりました。

──その他、フィラリア予防薬の開発などによって寿命が大幅に延び、しつけもそれまでの〝飴と鞭〞ならぬ〝鞭と鞭〞のトレーニングから〝ほめてしつける〞トレーニング方法に変わるなど、犬にとっては良い変化が起きていますね。

 昭和のときだって、犬好きは犬好きでほんとうにかわいがってはいたのですが、動物にも個別の意識があると考える人はごく一部でした。それが、動物の身になって動物のことを考えなければいけないと、ようやく多くの人々が気づいたわけです。
 ただし人間には福祉がありますけど、動物にも福祉が必要だという概念を理解している人はいまだに少数だと思います。動物愛護法のなかでも、愛護という言葉はあっても福祉という言葉はまだありません。そういうことも含めて、動物に対する意識は今後も変わる必要があると思います。

批判も炎上も
閉塞感に風穴をあけてくれる『Shi-Ba』の魅力

──今回の本の主な舞台は、平成十三(二〇〇一)年に創刊された初めての日本犬専門誌『Shi-Ba』(シーバ)ですが、この雑誌に焦点を当てようというのは、どんなところから?

 私はものを書き始めてから、もっぱら犬のことを中心に書いてきたのですが、そのなかで多くの方たちと巡り合い、そのお付き合いを通していろいろなことを知ることができました。そうするあいだにも犬たちを取り巻く環境が変化しているのを目の当たりにして、それを現代史として書き留めておきたいという気持ちがあったんです。
 でも、それだけを追っていたらお勉強チックになって、おもしろくないですよね。ならば、ちょっとバカがつくほどの犬好きの人の経験をたどっていくうちに、いつの間にか平成の犬事情がまるっとわかってしまう、そんな本にしたいなと思ったんです。
 もうひとつ、犬ライフのほんとうの魅力というのは、笑いだと思うんですね。毎日の暮らしのなかで、そんなにゲラゲラ笑うことってないじゃないですか。でも、犬と一緒にいると、ほぼほぼテンション高くて毎日笑っている。それはほとんどの飼い主さんが体験していることだと思うんですけど、それほど意識はしていない。ですから、犬といることで得られる笑いとかユーモアとかおおらかさというのは、いかに幸せなことで、貴重なことかというのをなんとかうまく伝えたいと思ったんです。
 そこで思い浮かんだのが『Shi-Ba』の編集長の井上祐彦(まさひこ)さんでした。この稀代の「犬バカ」を主人公にすれば、おもしろいかたちで書くことができるのではないかと。

──井上編集長はもちろんのこと、犬の肛門をアップした写真の特集を組むなど、破天荒な雑誌で、スタッフの方たちも編集長に劣らず立派な「犬バカ」ですね。

 創刊号では編集長の愛犬、柴犬の福太郎(ふくたろう)が唐草模様のバンダナを巻いている写真が表紙になっていますけど、当時はまだ犬に服を着せることを批判する雰囲気が強かったんです。でも、そうした批判を恐れないのが『Shi-Ba』の魅力のひとつです。この本の構想を練り始めたのは二、三年前なんですが、その頃から、社会全体にいいしれない閉塞感を感じるようになった。これをいったら誰かに突っ込まれるとか、こんなふうにいったら誤解されるとか。ネットの影響もあって、言葉ひとつ出すのも非常に神経質になってしまう。
『Shi-Ba』には、そうした閉塞感に風穴をあける姿勢があって、そこに深く共感しました。

──創刊十周年の記念号では、ヌード写真やお笑い芸などをオマージュした「袋とじ」を企画して、編集部のサイトが炎上していますね。

 「こんなのを見て笑える神経が理解できない」とか「柴犬好きの俺に謝れ」といった批判的な書き込みがネットにあふれて炎上しましたが、長年の読者はこの雑誌の独特のユーモアをよくわかっていて、ちゃんと火消し役になってくれました。
 あの企画に限らず他の犬雑誌では絶対にできない特集が多いのが『Shi-Ba』の特徴です。一部の人から「え! これ何? けしからん」といわれても、編集長をはじめスタッフの方たちはほんとうに犬を大事に思って企画を考えています。むしろ深く犬を理解している人なら絶対に受け入れられるはず、と読者を信じているんです。だから動じない。そういう根っこの強さや気骨ある姿勢は非常に尊敬できますね。
 まあ、もともとは編集長が自分の犬を表紙にしたいという、完全に個人の欲望爆発なんですけど(笑)、そういう犬バカの欲望に忠実だったからこそ、雑誌もこれだけ長く続いているんだろうと思います。

犬の認知症、飼い主の突然の死……
犬と人間の高齢化にどう向き合うか

──平成ももうすぐ終わりますが、次の時代にはどのような犬事情が出てくると思いますか。

 すでに問題になっていますが、人間の高齢化と犬の高齢化というのはますます大きな課題になると思います。犬の寿命が大きく延びたのは喜ばしいことですが、それに伴って人間と同じように病気のリスクが高くなり、認知症になる犬も珍しくありません。また高齢の飼い主の突然の入院や死亡によって、行き場を失うペットもいます。実際に愛護センターなどで保護される子というのは、そういう方たちの犬や猫だったりするわけです。
 一方、高齢になった動物好きの人々が、自分が先に死んだらかわいそうだと考えて、ペットと暮らすのをあきらめるケースもあります。
 命の責任を考えた行動ですが、その先には孤独な生活を強いる空気もある。犬や猫の存在は、生きる希望になるし、なにしろお世話する相手がいると生活に張りが出ます。単身世帯数が増え続ける今、〝責任を取れないなら飼うな〞だけでは解決できない問題もあります。いま少しずつですけれど、一人暮らしの高齢者が犬や猫と暮らせるようにサポートする制度や獣医さんの団体などが出てきています。
 高齢者にとって負担なのは、散歩とシャンプーです。トリマーがボランティアとして月に一回か二回シャンプーしに行ってあげたり、足が悪いけれど、家のなかの世話はできるという飼い主さんには、ボランティアが散歩をしてあげたりとか。まだまだ民間の皆さんが手弁当でやっているのが現状ですが、それを行政のサービスとして取り組もうという考えも出始めています。
 その他、小さ過ぎる犬や猫を販売しているペットショップの問題もあります。今、動物愛護法改正の準備が進んでいますが、その子たちを親のもとでちゃんと育てた上で販売するという、きちんとしたルールを作ろうという動きもあります。
 まだまだ考えなければいけないことはたくさんあって、これから先も、犬事情をしっかりと見ていきたいと思っています。

(「青春と読書」12月号転載)

著者プロフィール

片野ゆか

片野ゆかかたの・ゆか
1966年東京都生まれ。大学卒業後、求人広告誌の営業職を経て、文筆業に。2005年『愛犬王 平岩米吉伝』で第12回小学館ノンフィクション大賞受賞。著書に『アジワン ゆるりアジアで犬に会う』『ポチのひみつ』『旅する犬は知っている』『犬が本当の「家族」になるとき』『北里大学獣医学部 犬部!』『ゼロ! 熊本市動物愛護センター10年の闘い』『旅はワン連れ』『動物翻訳家』等多数。

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片野ゆか 著
2018年11月5日発売
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