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TAS 特別師弟捜査員

TAS 特別師弟捜査員

TAS 特別師弟捜査員

中山七里 著
2018年9月5日発売
ISBN:978-4-08-771159-2
定価:本体1600円+税

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ある少女に起きた悲劇。
男子高校生と刑事は、真相を突き止めるべく、潜入捜査を開始する。
この結末、誰にも予想できない。
“どんでん返しの帝王”が新たに仕掛ける
バディ×学園ミステリ!

編集者のテマエミソ新刊案内

中山七里、初の学園ミステリ!『TAS 特別師弟捜査員』  9月5日(水)発売

 

9月5日(水)、中山七里さん初の学園ミステリ『TAS 特別師弟捜査員』が刊行となりました。
──学園一のアイドルが転落死した。事故か、自殺か、それとも事件か。ある少女に起きた悲劇。男子高校生と刑事は、真相を突き止めるべく、潜入捜査を開始する。“どんでん返しの帝王”が新たに仕掛けるノンストップ学園ミステリ!──
ここでは、ライター・吉田大助さんの書評を掲載いたします。
「『さよならドビュッシー』の直系の作品だ。」と評される本作、ぜひご一読いただけますと幸いです。

書評

演劇によって生み育てられた名探偵

吉田大助(ライター)

 

 よく知られているように、中山七里には二つの顔がある。第八回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞したデビュー作『さよならドビュッシー』(二〇一〇年刊)で見せた顔と、同賞の同時最終候補作となった裏デビュー作『連続殺人鬼カエル男』(二〇一一年刊)の顔だ。両者は共にどんでん返しを採用しながら、かたや繊細な心理描写を取り入れた「せつなさ」のミステリーで、かたやグランギニョルを徹底した「えげつなさ」のミステリーだった。最新刊『TAS 特別師弟捜査員』は前者に当たる、とひとまず言うことができる。でも、それだけでは説明が足りない。本作は、ミステリーとしての顔立ちが似ているのみならず、ミステリーとそれ以外のサブジャンルの融合という点で、『さよならドビュッシー』の直系の作品だ。
 確認しておくと、『さよならドビュッシー』でミステリーに融合されていたジャンルは、音楽だった。火事で祖父と従姉妹の命を奪われ、全身火傷の状態で生き残ったヒロインが、再びプロのピアニストを目指すためコーチの特訓を受ける。作中にはさまざまな謎(ミステリー)が登場するものの、描写のボリュームといい読み心地といい、純然たる音楽小説だ。その直系の子孫と言える『TAS 特別師弟捜査員』で融合されているジャンルは、何か。演劇だ。
 主人公は、平凡な高校二年生の慎也。「ねえ。慎也くん、放課後ヒマだったりする?」。そう声をかけてきたのは、成績優秀で学校一の美少女という呼び声も高いクラスメイトの雨宮楓。昨日まで何の接点もなかったのに、突然なんなんだ。放課後が来るのをそわそわ待っていたが、昼休みの終わり、楓は校舎の高層階から落下して死んだ。飛び降りたとされる美術室の窓の構造から、事故ではないという噂が校内に広まる。自殺だとしたら、動機は何だ?  放課後に慎也と会う約束をしたのは、不合理ではないのか。だとしたら……。
 楓は演劇部の部長だった。帰宅部の慎也は、楓の死の謎を探るために、幼なじみの瑞希や拓海らも所属している演劇部へ入部する。その行動の裏には、従兄で警視庁勤務の刑事・公彦との共闘関係があった。警察の捜査情報を一部リークしてもらうかわりに、自分は楓周辺の交遊情報を渡す。タイトルの「特別師弟捜査員」は、この関係性から取られている。
 演劇部は区のコンクールで、ヘレン・ケラーと家庭教師サリバンを主人公にした戯曲『奇跡の人』を上演する予定だった。ヘレン役の楓がいなくなってしまった以上、演目を変えざるを得ないかもしれない。そんなおり、慎也が意外な才能を発揮する。「三重苦」のヘレンを、現代の「引きこもり」に置き換えて大きくアレンジした戯曲の執筆と、演出を手掛けることになるのだ。物語の軸は少しずつ、表現する喜びと表現者の苦悩へとシフトチェンジしていく。
 そもそも慎也が演劇に目覚めたきっかけは、戯曲だった。入部早々、演劇について学ぶため、部室から持ち出した戯曲を自室で読むシーンがある。初体験となった戯曲は、松尾スズキの『ファンキー! 宇宙は見える所までしかない』だ。〈とにかく面白かった〉という感嘆の溜め息の後で、こんな言葉が紡がれる。〈正直に言えば演劇というものはもっと深遠で、理屈っぽく、どこか大袈裟なものだという印象が強かった。(中略)でも、この戯曲を読んでそんな先入観は綺麗さっぱり吹っ飛んでしまった。/演劇ってこんなに自由なんだ〉。衝撃を受けた慎也は翌日、他の劇作家の本にも手を伸ばす。その際の描写が、熱い。〈ただの読書ではなかった。元より舞台化を前提としているせいだろうか、読んでいる端から頭の中に映像が浮かぶ。目に飛び込んできた文字が、すぐ色彩と音声を伴ったステージに脳内で変換される。こんな体験は初めてだった。/一冊読んでは余韻に浸り、呪縛が解けたら他の本に移る〉。
 ここには、一〇代ならではのリアルがある。一〇代の子どもたちには、観劇するお金もなければ、近くに劇場があるような環境もなく、どの舞台を観に行けばいいかも分からない。だからこそ、彼らがまず最初に試みるのは、手当たり次第に過去の戯曲を読むことなのだ。中山七里は、少年少女達が演劇に心を燃やす初期衝動を肌身で知っている。少なくとも、演劇を愛している。
 この物語は、ひとりの少年の成長小説でもある。本作における成長とは、世の中を自分の価値観だけで決めつけず、自分とは異なる立場の人々へと思いを馳せる、想像力の獲得にある。それは自分以外の誰かに成り代わって演技する、演劇という表現に携わることでエクササイズされる。そして、その想像力が推理力へと変換された結果、事件の「真相」をも見抜けるようになる。
 「真相」の解明と共に、青春の「終わりの始まり」が訪れるラストシーンは、鮮やかだった。この展開の先で、続編やシリーズ化は難しいのかもしれない。だが、演劇によって生み育てられた名探偵の再登場を、楽しみに待ちたい。

(「青春と読書」2018年9月号転載)

著者プロフィール

中山七里なかやま・しちり
1961年、岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』にて宝島社『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し2010年に同作で作家デビュー。音楽を題材にした岬洋介シリーズのほか、時事問題をテーマとした社会派小説まで幅広くてがける。『連続殺人鬼カエル男』『連続殺人鬼カエル男ふたたび』贖罪の奏鳴曲』『切り裂きジャックの告白』『アポロンの嘲笑』『作家刑事毒島』『護られなかった者たちへ』『能面検事』など著書多数。

TAS 特別師弟捜査員

TAS 特別師弟捜査員
中山七里 著
2018年9月5日発売
ISBN:978-4-08-771159-2
定価:本体1600円+税

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