日本初の本格国産ウイスキー造りに命を捧げたサントリー創業者・鳥井信治郎の挑戦!
定価:1,600円(本体)+税 10月5日発売
今、巷の酒場ではウイスキー「白州」や「山崎」がなかなか手に入らないことは、酒好きの方ならご存じのはず。海外のシングルモルトももちろん美味しいが、やはり今はジャパニーズ・ウイスキーの時代。なぜか。それは日本人の味覚に合っているのだと思う。
本書は日本で初の本格国産ウイスキー造りに命をかけたサントリー創業者、鳥井信治郎の物語。大阪船場に生まれ、13歳で丁稚奉公に入り、二十歳で独立。今年発売110年をむかえた赤玉ポートワイン(現在は〝赤玉スイートワイン〟という名で売られている)を造る。周囲の猛反対をおして、莫大な借金をして山崎蒸溜所を建設し、試行錯誤を繰り返し、角瓶、オールドと次々に成功させ、日本にウイスキー文化、洋酒文化を根付かせる。
一見、企業小説のように思えるかもしれないが、著者の伊集院氏は企業小説を書いたつもりはないという。明治大正昭和と果てなき情熱を持って駆け抜けた鳥井信治郎という男の生き様を描いた小説である。
信治郎が残した「やってみなはれ」という言葉がある。文中にもしばしば出てくるが、この言葉には三つの意味が込められていると伊集院氏は言う。ひとつは「やってみなければ何も始まらない」。ふたつ目は「それで失敗しても構わない」。そして最後が「失敗の中に必ず成功につながる何かがある」と。
すぐ結果を求める今日の風潮の中でこの言葉の持つ意義は大きい。愚直に一歩一歩進み続けていれば、その先に大きな青空が見える。仕事のみならず、人生の様々な場面で、なんと勇気づけられる言葉ではないだろうか。
ほかにも、この小説には名シーン、名セリフが満載だ。
「ええもんをこしらえるためには、人の何十倍も気張らんとあかんのや。そうやってでけた品物には、底力があるんや。わかるか。品物も人も底力や」
「女遊びと思うてたら大火傷しまっせ。女は遊ぶもんと違います。どんな女の人にでも親御さんがある。その相手と遊ぶのは男はんの道と違うと」
「わてが使う銭は皆がしあわせになりま」
「何を言うてんのや。ここまででけてんのや。あともうちいと光沢が出たら、それでもっとようなるんやないか。ここで投げ出してしもうたら博労町の職人の名前が泣いてまうで……。ほれ、やってみなはれ。必ずでけるよって」
実は一番好きなシーンは各巻の帯に掲載したので、ぜひ手に取ってほしい。
日々、編集作業を続ける中で、次第に鳥井信治郎と伊集院静がダブって見えてきた。
この小説は伊集院氏が描くもうひとつの『大人の流儀』かもしれない。そう思って本書を読んでいただくのも、あり! だと思う。