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刊行記念特別寄稿

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真ん中の子どもたち

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「ふつうの日本人」とは? 日本生まれのハーフの若者たちが、国境を越えて自らの生き方を模索する『真ん中の子どもたち』。著者・温又柔さんからのメッセージ

定価:1,300円(本体)+税 7月26日発売

温又柔さんの最新刊『真ん中の子どもたち』は、複数の国の間で自らの生き方を模索する若者たちの姿を描く青春小説です。
台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、幼いころから日本で育った琴子(ミーミー)。
日本育ちで、台湾×日本のハーフである嘉玲(リンリン)。
日本育ちで、両親ともに中国人の舜哉。
本作の刊行に寄せて、著者の温又柔さんからメッセージをいただきました。

わたしたちは、ここにいる ~『真ん中の子どもたち』刊行に寄せて~

 ミーミーのママは台湾人だ。四歳のときのミーミーは、友だちのママも皆、台湾人なのだと思っていた。パパとママのどちらかが日本人ではないことのほうが、この国では少々めずらしいことなのだとは知らなくて。
 パパとママのどっちが好きなの? と訊かれたミーミーは、パマ! と叫ぶ。どちらかひとつなんて選べない。パパとママの半分ずつが自分の全部だと思うから。
 少し大きくなってから、
 ――お母さん、ガイジンなんでしょ?
 と言われたときは、とても悲しかった。大好きなママのことが否定されたみたいで。

 リンリンには台湾人のパパがいる。リンリンのママは、リンリンがパパの言葉を忘れてしまわないように、おうちにいるときは日本語でしゃべることを禁じた。そのおかげでリンリンは中国語がとてもじょうず。けれども……
 ――あたし、一時期、中国語が大っ嫌いだった。なんでパパは日本人じゃないの? あたしも、ふつうのパパが欲しいと思ってた。でも、こいつのお父さんガイジンじゃん、って言われたときはすっごく腹が立った。だって、あたしのパパは台湾人だもん。ガイジンなんかじゃない。

 親のどちらかが日本人ではないミーミーとリンリンは、

 「ふつう」の日本人
 「ほんもの」の日本人
 「完全」な日本人

 ではない、とみなされることがある。そのことを悲しんだり、くやしがったりすることがある。ただ、心の中ではひそかに、ひととちがっている自分たちは特別だということを、誇りに思ってもいる。

 ミーミーとリンリンの友だち・舜哉ははっきりと言い切る。

 ――ほんものの日本人なんか、日本じゅうにいっぱいいる。おれたちのほうが、ずっと貴重なんだよ。

 舜哉のパパとママは元中国人。お祖父ちゃんは台湾から日本に渡ってきた。そんな舜哉もまた、ミーミーやリンリンと同じで、中国語や台湾語を聞きながら育った。
 母の、父の、両親の、祖父母の言葉を学ぶために上海で出会った三人は、ほんものの、ふつうの、完全な日本人ではない自分たちは、嘆かわしいどころか、喜ばしい存在なのだと笑い合う。
 ――この父と母の間に生まれ、育ったことは私にとって幸運にちがいない。

 日本、台湾そして中国を隔てている国境線の在り方を問い直しながら、自分自身の生き方をそれぞれ模索するミーミーとリンリン、そして舜哉は、作者である私の分身そのものだ。
 かれらのような、そして、私のようなすべてのひとたちに、いま私は伝えたい。
 日本は、私たちの国でもある。
 日本語は、私たちの言葉でもある。
 あなたの真ん中はあなただ。
 あなたはあなたの真ん中で堂々と生きなくてはならない。
 何しろ、他者への深い尊敬の念は自尊心から始まる、のだから。
 この本が、この本を切実に必要としてくださる方々のもとへと届くことを心から祈っています。

2017年7月24日 温又柔

芥川賞候補作! 日本育ちのハーフの若者たちが自らの生き方を模索する、温又柔(おん・ゆうじゅう)『真ん中の子どもたち』に注目!

第157回芥川龍之介賞にノミネートされた、温又柔『真ん中の子どもたち』は、台湾人と日本人の両親を持つ19歳の「琴子」が、上海への語学留学に旅立つシーンから始まる。そして留学先の語学学校で、琴子は同じく台湾×日本のハーフである「嘉玲」、両親ともに中国人で日本で生まれ育った「舜哉」と出会う。
日本では「純粋な日本人じゃない」と言われ、台湾に行くと「日本から来た人」として遇され、上海では「台湾」という異郷の人として扱われる琴子たち。
日本、台湾、中国――、三人は複数の国の間で悩みながら、それぞれの生き方、それぞれの「ことば」を模索していく。
果たして「国境」とはなにか?「母語」とはなにか? 読み手の心に新たな問いの種を蒔く、魂のこもった青春長編。

四歳の私は、世界には二つのことばがあると思っていた。
ひとつは、おうちの中だけで喋ることば。
もうひとつが、おうちの外でも通じることば――(本文より)




温又柔さん【プロフィール】
温又柔 おん・ゆうじゅう
1980年、台湾・台北市生まれ。3歳の時に家族と東京に引っ越し、台湾語混じりの中国語を話す両親のもとで育つ。
2009年、「好去好来歌」ですばる文学賞佳作を受賞。11年、『来福の家』(集英社、のち白水Uブックス)を刊行。13年、音楽家・小島ケイタニーラブと共に朗読と演奏によるコラボレーション活動〈言葉と音の往復書簡〉を開始。同年、ドキュメンタリー映画『異境の中の故郷――リービ英雄52年ぶりの台中再訪』(大川景子監督)に出演。15年、『台湾生まれ 日本語育ち』(白水社)を刊行。同書で第64回日本エッセイスト・クラブ賞受賞。


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