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アンカー

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マスコミと警察、双方向から事件を追うユニークな手法。
傑作捜査小説、今野敏『アンカー』【評者:三橋曉】

定価:1,600円(本体)+税 5月26日発売

 現役閣僚の失言から、マスコミの追及が当の大臣を辞任にまで追い込んだ「東北でよかった」舌禍事件の顚末は、久々に報道の使命を目の当たりにした出来事だった。しかしながら、マスメディアの苦境に変わりはない。テレビや新聞といった従来の媒体は、インターネットに押され、依然深刻な危機に晒されている。
 今野敏が、マスメディアの最前線に焦点を合わせた〝スクープ〟シリーズで描く、おなじみ東都報道ネットワーク(TBN)のニュース番組「ニュースイレブン」の現場も例外ではない。視聴率が低迷する番組のテコ入れ策として、関西の系列局からやり手の人物が異動してきた。従来のやり方にことごとく異を唱える関西弁の男に、デスクの鳩村はイライラを募らせている。 
 今回のタイトルである『アンカー』は、ニュースを掘り下げ、わかりやすく視聴者に伝える番組のメインキャスターのことだ。「ニュースイレブン」では、ベテランアナウンサーの鳥飼が、番組の顔としてその役割を果たしてきたが、突如漏らした去就をめぐるひと言が、スタッフに波紋を投げかけていく。
 シリーズは、連作短編集『スクープ』を皮切りに、長編の『ヘッドライン』、『クローズアップ』と、マスコミと警察が競合する捜査小説というユニークな形を作りあげてきた。そして、それにより一層の磨きをかけた本作で、異なった双方向から事件を追うこのシリーズ独自のスタイルを完成の域に近づけたと言っていいだろう。
 町田で大学生が犠牲になった刺殺事件は、未解決のまま十年が経過した。被害者の両親は、今も手がかりを求めて、駅前でチラシを配っている。新たに担当となった警視庁特命捜査対策室の黒田部長刑事と谷口巡査は、「ニュースイレブン」の専属記者、布施京一がこの事件に興味を持っていることに目を止める。
 実は布施には不思議な嗅覚があって、上司の鳩村との軋轢を飄々とかわしながら、数々のスクープをものにしてきた。また黒田という捜査官も、現場百遍ならぬ資料百遍の粘り強さに定評がある。警察は捜査、報道は取材と、事件へのアプローチの方法は異なるが、互いの接点を保ちつつも、それぞれの矜持を乱さず地道に事件を追う彼らの手で、やがて事件の謎は鮮やかに解き明かされていく。
 報道の自由、商業主義、許認可をめぐる国との関係という三竦みのジレンマに立ち向かうテレビ局スタッフたちのチームワークに心を揺さぶられる場面もある。しかし、彼らも胸に秘めているに違いない、第四の権力としてマスコミが果たすべき役割、すなわち国民の知る権利について改めて力強く説く作者の問題提起も読み逃してはならないだろう。

みつはし あきら●文芸評論家・コラムニスト
「小説すばる」2017年6月号掲載


【担当編集者より】

「隠蔽捜査」シリーズで第2回𠮷川英治文庫賞を受賞し、ますます勢いに乗る今野敏氏。
今野氏のシリーズ作品といえば、他にも「安積班シリーズ」「碓氷弘一シリーズ」「倉島警部補シリーズ」「樋口顕シリーズ」など、人気の警察小説が目白押しです。
今作『アンカー』は、テレビの報道記者と捜査一課の刑事を中心に据えた、「スクープシリーズ」の第4弾。犯罪捜査という警察小説の魅力に加え、事件を取材するテレビ報道の裏側にも迫るという、読み応えのある異色作です。

今回も、独自の「嗅覚」で驚くべき動きを見せる報道記者・布施と、鬼気迫る「執念」で捜査を進めるベテラン刑事・黒田が、絶妙な距離感で関わり合いながら、未解決事件の継続捜査に挑みます。


≪あらすじ≫

TBNの報道番組『ニュースイレブン』の名物記者・布施京一。これまで幾つものスクープをものにしてきた布施は、なぜか十年前に町田で起きた大学生刺殺の未解決事件に関心を寄せていた。被害者の両親が、犯人逮捕の手がかりを求めて今もなお駅前でのビラ配りを続けているのが記憶に残ったという。この件の継続捜査を、警視庁特別捜査対策室のベテラン刑事・黒田が担当することを知った布施は、いつものように黒田へ接触を図る。布施と黒田はそれぞれ動きを進めるが、真相解明に至る糸口はあまりに乏しく、謎だけが深まって行く。
一方、『ニュースイレブン』の現場には、視聴率低迷のテコ入れとして、栃本という男が関西の系列局から異動してきた。視聴者受けを重視する関西人の栃本と、報道の理念にこだわるデスクの鳩村は早速衝突し、不穏な空気が漂い始める。
 テレビ報道の本質とは? 事件の奥に潜む意外な真相とは?

今回は今野作品には珍しい関西弁キャラクター・栃本が新たに登場。布施とはまた違うタイプの異分子として思わぬ存在感を発揮し、作品自体に新風を吹き込んでいます。

報道と警察が、それぞれ現場に軋轢を抱えながらも、一つの事件の解決へ向けて動く。その事件捜査の行方もさることながら、それぞれのチームがつかず離れず最終的に同じゴールを目指す姿は、今野作品ならではのヒューマンな味わいに満ちています。

読後感が抜群に良いという点も、今野作品に共通した魅力のひとつ。
『アンカー』のラストも、読者の胸にグッと迫るものとなっています。
スクープシリーズ既刊と併せて、ぜひご堪能ください。


今野氏のインタビューが読める特設サイトはこちら
http://renzaburo.jp/anchor/


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