• twitter
  • facebook
  • RSS
 
 

担当編集のテマエミソ新刊案内

  • 一覧に戻る

ジュリエットのいない夜

  • 紙の本
  • 電子の本

『ジュリエットのいない夜』刊行記念エッセイ

定価:1,400円(本体)+税 4月5日発売

『ジュリエットのいない夜』について
鴻上尚史

『ジュリエットのいない夜』というタイトルの小説集を出すことになりました。もともとは、『ロミオとジュリエット』という作品に焦がれたのが始まりです。

 一番最初に接したのは、映画でした。フランコ・ゼフィレッリ監督、オリビア・ハッセーとレナード・ホワイティング主演の1968年の映画です。

 初めて見たのは、たしか中学生の時で、僕は、ただただ、オリビア・ハッセーの美しさに打ちのめされました。大人になって、再び見てみると、フランコ監督の力業に唸りました。芝居の通常の上演時間は2時間半ほどですが、映画は138分というギリギリのきわどい所で商業作品としてパッケージ化に成功しています。

 そのために、大胆なカットもしています。中途半端な演劇通が見ると「ええ!? このシーンがないの!」と叫びそうなこともやっています。

 それでも、フランコ監督の作品は、『ロミオとジュリエット』のひとつのイメージを創りました。後に続く人達は、それが手がかりにもなるし、足かせにもなります。

 僕も一度、『ロミオとジュリエット』を演出しました。僕自身の力不足で、いろいろとうまくいかないことが多い上演でしたが、それでも、作品が持つ多面的な豊かさに感動しました。この作品は恋愛に溢れていますが、性的なジョークや家族問題、ご都合主義などてんこ盛りなのです。

 自然に『ロミオとジュリエット』に対するいろんな突っ込みやパロディや尊敬が溢れました。やがて、それを小説の形にするのは面白いんじゃないかと考えるようになりました。

 ロミオは登場のシーンで、ロザラインという女性に恋をしています。親友のベンヴォーリオは、そんな女のことは忘れろと言いますが、ロミオはあれ以上に美しい人がいるわけがないと拒否します。

 そして、キャピュレット家が主催する舞踏会にロザラインが姪として招待されていることを知り、忍び込み、そしてジュリエットに一目惚れするのです。

 そして、ジュリエットがキャピュレット家の人間だと知って苦悩します。自分はモンタギュー家であり、両家は激しく対立していると悲しむのです。が、よく考えたら、本当によく考えたら、ロザラインだってキャピュレット家なのです。キャピュレット家の舞踏会の出席者リストに「美しき姪ロザライン」と書かれているのです。というか、惚れたんだから、そんなこと知ってるだろうという突っ込みです。でも、今までは、上演中にそんな突っ込みをした観客はいません。僕だって、ずっとこの矛盾に気付きませんでした。

 そんなことをぶっ飛ばして『ロミオとジュリエット』は存在しているのです。

 演劇の演出家を35年ぐらいやっています。自分でも驚くぐらい長い時間です。なので、いろんなことを見たり、知ったり、してきました。これを小説にしたら面白いんじゃないかと、考えるようになりました。

 たぶん、どんな業界も深く入れば間違いなく面白いエピソードがあるはずで、僕は演劇界にずっといるんだから、各方面に具体的な迷惑をかけない書き方で、ディープな演劇界のいろんなことを、面白く小説に書けたらいいんじゃないかと思いました。

 うんざりするぐらい人間ドラマはあります。なにせ、稽古場で1カ月以上、作品の規模にもよりますが、何十人という人間が毎日、集まり、ぶつかり、働き合うのです。ドラマが生まれないはずがないのです。

 あんまりドラマがありすぎると、「人間疲れ」を起こして、「もうしばらくは人間はいい」と思うことになります。でも、しばらくするとまた、「人間とつきあってみるか」と思うようになるのです。

 書いた小説は中編が2本。1本は、『ロミオとロザライン』というタイトルで、架空の劇団を舞台にしました。「劇団」というシステムもまた、人間ドラマを生むためにあるような存在です。

 演出家と主演女優、そして若い男女の俳優の4人がメインの話です。

 2本目は『オセローとジュリエット』。シェイクスピアの作品、『オセロー』と『ロミオとジュリエット』を大胆に合体というか、ぶつけてみました。こっちは、劇団ではなく、プロデュース公演の物語です。プロデュース公演というのは、毎回、集まり、上演し、別れていくシステムのことです。

 2本の小説の登場人物は一部、ダブっています。この小説集がそこそこ売れたら、また、シェイクスピアの世界を、つながった登場人物で遊べたらいいなと思っています。古典の世界を、現実の生々しいビジネスや芸能界や恋愛の世界に引きずり込んで、小説にしたいと思っているのです。

 まずはこの小説集、楽しんでいただけると嬉しいのですが。

(「青春と読書」4月号より転載)



こうかみ・しょうじ
1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。在学中に劇団「第三舞台」を結成。以降、作・演出を手掛ける。1987年「朝日のような夕日をつれて」で紀伊國屋演劇賞、92年「天使は瞳を閉じて」でゴールデン・アロー賞、95年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞する。日本劇作家協会会長。
現在は「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を主宰し活動中。小説に『ヘルメットをかぶった君に会いたい』『僕たちの好きだった革命』『八月の犬は二度吠える』がある。


ページのトップへ

© SHUEISHA Inc. All rights reserved.