• twitter
  • facebook
  • RSS
 
 

刊行記念特別インタビュー

  • 一覧に戻る

自由なサメと人間たちの夢

  • 特設サイトへ
  • 紙の本

死にたがりの主婦、新型の義手を手にした工場員、「虫」というアダ名の女子高生、サメを飼うキャバ嬢――。『自由なサメと人間たちの夢』は痛快な毒気をはらんだ全7編の短編集!

定価:1,400円(本体)+税 1月26日発売


怒り、悲しみ、劣等感――行き場のない感情を抱えながらあがく人間たちを描く、渡辺優さんの最新刊『自由なサメと人間たちの夢』が発売されました。前作『ラメルノエリキサ』で第28回小説すばる新人賞を受賞した渡辺さんの受賞後第一作となる短編集です。刊行にあたり、渡辺さんに本作への思いを伺いました。
聞き手・構成=藤原理加/撮影=山口真由子


「装飾していない感情」が楽しい

──受賞後第一作、七つの短編からなる『自由なサメと人間たちの夢』。プレッシャーはありましたか?

 はい。この中の「ロボット・アーム」という短編を最初に『小説すばる』に載せていただいたのですが、そのときはかなりプレッシャーを感じました。生まれて初めて書いた短編だったので、これでいいのかなとすごく不安で。ただ、それを載せていただいてからは、何となくこれでいいのかもと開き直れて、楽になりました。

──受賞作『ラメルノエリキサ』の主人公・りなちゃんも強烈に魅力的でしたが、今作の主人公たちもみんな独特で魅力的ですね。そして七編の登場キャラクターが持つ、その独自のリアリティーというか、きれいごとをできる限り排除した嘘のない心理が描写されているように感じました。

 自分では、この話の中にリアリティーがあると思っていなかったんです。ただ、装飾してない感情というか、そのままで書いたほうが自分としては楽しいし、すごく書きやすいというのがあったので、それをリアリティーと言っていただけて、今、本当に嬉しいし、よかったと思いました(笑)。

──装飾していない感情とは、まさに名言ですね! ところで、そんな渡辺さんは、小説を書かれるとき、「人物」と「物語」、どちらを先に作られるのでしょうか? 

 たぶん、私の場合は、話が先だと思います。ただ、設定というか人物が先に出てくるときもあります。たとえば一話目の「ラスト・デイ」は、希死念慮(死にたいと願うこと)の強い女性のひとり語りみたいなのを想像していって、これを話にするなら、どこでどういう流れになるかな……という感じで書いていきました。

──「ラスト・デイ」は、主人公のひとり語り・心理描写に加えて、とても綿密に取材されたのかなというぐらい、ありありと病院内の空気まで伝わってきますね。

 取材はしていないんですけれど、十代の頃はメンタルヘルスに通っていた友人も多くて……。総合病院に入院していた知人もいたりしたので、そこで聞いた話をもとに、思いきり想像して書きました。

──二話目の「ロボット・アーム」も、ある意味、そういう想像力を思いきり発揮された作品ですね。義手にしたことを機に、強くなりたいという願望がエスカレートしていく男性の心理が絶妙に描かれています。

「ロボット・アーム」は、大学時代に受けた心理学の授業で幻肢痛について学んで、それが何となく残っていて。それで、とにかく何か短編一個書かなきゃと思ったときに、幻肢痛、義手、義足、義肢……と、なんとか絞り出したのが、この話だったんです。


物語をしぼり出していく作業

──そして、三話目の「夏の夢」では、〝明晰夢〟を見ようとする男子大学生、四話目の「夢の中の絵」では、夢に出てきた絵を探す男女の話……と、本書の七編は、タイトル通り、さまざまな人間たちの〝夢〟や〝願望〟がモチーフになっています。ときに怖かったり、歪んでいたり、でも、それぞれにどこか共感できる。そして、四話目の「夢の中の絵」は、とくに、とても優しい味わいがありますね。

 これも、頑張って話を考えなきゃという状況で、椅子に座ってすごく考えて絞り出した記憶があります。そして、「夢の中にとても好きな絵が出てきて、それを現実でも見たくて──」という設定はじつは、その数日前に私自身が見た夢を使ってしまいました(笑)。

──五話目の「虫の夢」は、高校でのクラスメイト刺傷事件という衝撃から始まります。冒頭の文章から、ドキっとさせられますね。

 これは、じつは今回の単行本用に最後に書きおろした短編なのですが、これも、夢、夢、夢……と絞り出した記憶があります。あと、冒頭の文章は、まだ小説を書き始める前に準備として、いろんなメモをしてたんですけれど、その中から引っ張ってきた一文です。とにかく書かなきゃというので探してるうちに思い出して……。でも、結構上手くハマってくれたので、我ながら「よし!」と思いました(笑)。

──そして、六話「サメの話」はキャバクラで働く女性・涼香の物語、七話「水槽を出たサメ」は、なんと涼香が飼っていたサメが主人公! この二話は、連作短編ですが、サメ視点というのは、『吾輩は猫である』の現代版と言ってもいいくらいユニークで面白いです。

 いただいた依頼が「対になってる二つの短編を」というものだったので、どちらも人間より、一つは何か変わったもののほうがやりやすいかな、と。そんなとき、アルバイトの休憩時間にニュースサイトを見ていたら、サメ映画を取り上げている記事の中に〝今年はサメ映画が不作だ、人はサメ映画がなきゃダメなんだ〟みたいな文章があったんです。そこから、確かにサメ映画ってすごくときめくよなあ、みたいなことを考えているうちに、じゃあ、サメにしようと。サメって、野生動物だけに普段はあんまり関わりがない。そこに安心感と恐怖との……、何でしょう、ちょうどいいなというのがある気がしたんですね。


威力のある言葉

──サメ=ときめく、そこにも渡辺さん独自の感性をうかがえた気がしてすごく納得です。また、以前、村山由佳さんとの対談で、「言葉の持つ威力に憧れている」というふうな話をされていましたが、今回も、たとえば「グランデ×グランデ」とか「死ニタリスト」など、まさに渡辺さん独自の「威力のある言葉」が随所に。そこはご自身では、意識されていますか?

 言葉については、割と、これいいじゃん! と思ったままに思いつきで書いている気がします。ただ、色の名前、たとえば「夢の中の絵」に出てくるフタロシアニングリーンとかはネットでかなり調べて、何かいい感じの名前、かつ、いい感じの色を探そうと思い、厳選しました。

──では、普段から「言葉探し」もされていますか?

 それもあります。何か思いついたら携帯のメモにメモして、で、何も書くものがないと行き詰まったときにそれを見返して、じゃあ、これにしようみたいなことは結構あります。あとは、空想癖があるというか……、たとえば人の会話とか、好きなJ-POPとかを聴いていて、あ、いいなと思った言葉を土台に空想していくうちに、自分の中でこれだという言葉が見つかったりもします。

──これだと思った言葉が見つかったときのお気持ちは?

 それはほんとに、「よし!」「やったぜ!」っていう感じです。その瞬間が、小説を書いていて、一番か二番ぐらいに楽しい気がします(笑)。


どの種類の面白さでもいいので、
どこかに引っかかってもらえれば嬉しい

──四話目の「夢の中の絵」の中に、夢で見た絵を探している奈緒の、「誤解にまみれても、 ほんの少しだけでも伝わればいい、と思うこともあります、どうしても伝えたいことなら」という台詞がありますね。それは、言葉によるコミュニケーションが苦手だと感じている者にとってはすごくはっとさせられる言葉だし、もしかしたら渡辺さんご自身の作家としてのお気持ちも入っているのかなと勝手に思ったのですが?

 それは会話のシーンで「こう言われたら、この人ならこう答えるだろう」みたいな感じで考えて書いた言葉だったんですけれど、今思えば確かに、自分の気持ちも入っている気がします。たとえば、この一年、インタビューしていただくことが増えて、喋った後に、また、しょうもないこと言っちゃったなと後悔することがよくあって……。そういった経験から「ほんの少しでも伝わればいい」という気持ちが生まれたように思います。

──会話の面白さといえば、六話・七話のサメと涼香の会話も、本当にユニークですね。特にサメのキャラクターが最高です。サメなのに、心理描写にもすごくリアリティーと説得力があります。

 サメも人も、〝想像から生まれた人物〟という意識があるので、サメも、人間を書くときと変わらない気分で書いてました。そして、これはサメに限らずなんですが、自分の中では、自分からかけ離れた状況のキャラクターというか、もう一〇〇%想像だけで書いたほうが、没頭しやすいんです。逆に言えば、何か自分に近いところがあると、自分の愚痴が混ざってきちゃうので、書きにくいんですね。

──では最後に、受賞後のエッセイで「理想の小説を書けるように努力していきたい」というふうに書かれていたのが印象的だったのですが、渡辺さんにとっての理想の小説というのは、どういうものですか?

 それは、一番答えに迷うところです。なにしろ私はまだ読者だった期間のほうが圧倒的に長いので……。たとえば私は森博嗣さんが大好きなんですが、読み終わった後、いつも「私がこれを書いてればいいのに」と思うんです。自分の小説よりも、好きな方が書いた小説のほうが好きだなと思うので、それを超えていけたらいいなという憧れはあります。そして、もうほんとの最低限、話全体を通してではなくても、その瞬間瞬間だけでも、ちょっと面白いなと読んだ人が感じてくれるなら、まあ及第点かなというふうに思っています。とはいえ、いろんな面白さがあるとは思うんですけれど、どの種類の面白さでもいいので、どこかには引っかかってくれればいいなというふうには、今、いつも願っています。

(「青春と読書」2017年2月号より転載)


特設サイトはこちら⇒http://renzaburo.jp/same/



渡辺優さん渡辺優(わたなべ・ゆう)
作家。1987年宮城県生まれ。大学卒業後、仕事のかたわら小説を執筆。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞。


ページのトップへ

© SHUEISHA Inc. All rights reserved.