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新刊ブックレビュー

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木もれ日を縫う

  • 紙の本

ちぐはぐな「母」の姿がつなぎあわせる人生。
谷 瑞恵『木もれ日を縫う』【評/倉本さおり】

定価:1,300円(本体)+税 11月4日発売

 社会に出る。結婚する。子供が生まれる。人の肩書や境遇は、その都度めまぐるしく変わっていく。なのに、自分にとっての「母」は「母」のまま、更新されることなくずっとそこにいるのが当たり前だと思っている。
 その当たり前がいつのまにか抜け落ちてしまったとき――人びとの心の中にはどんな風景が浮かび上がるのだろう?
 この不可思議な物語を紡いでいくのは、上京して別々に暮らしている三姉妹だ。ファッション業界で日々流行を追いかけつむぎる末っ子・紬。女っ気のない職場でフォークリフトも乗りこなす次女・麻弥。そしてタワーマンションに住む専業主婦の長女・絹代。性格も服装も暮らしぶりも見事に不揃いだけれど、ひとつだけ共通点がある。それは、自分たちが生まれ育った貧しい家に対して強いわだかまりを持っているということ。彼女たちはそれぞれに故郷を――そこにいる「母」ごと切り捨てたのだ。
 ところが、母が忽然と失踪。その一年半後、姉妹の前に「母」を名乗る女性が現れる。確かに見慣れた格好だし、話し方も同じ。でも、どことなく気味が悪い。違和感を拭い切れない。あれ?そもそもお母さんってどんな顔だったっけ?
――そこで初めて姉妹は、母と正面から向き合ってこなかった自分たちに気づく。
 愛人を作った父を責めることなく、祖母のいびりにも文句を言わず、黙々と働き続けていた母。使い古した布きれを集め、嬉しそうに縫い合わせていた母。そうやって出来あがった不細工なパッチワークを、ありがた迷惑ながらいつもプレゼントしてくれた母。懸命に取り出した記憶から紡ぎ出されるのは、母に対する本音であると同時に、彼女たち自身の本当の姿でもある。
 やがて姉妹が「母」の姿を受け入れ始めたとき、思いもよらない事実が明らかになる。
 読んでいる間じゅう、自分を構成するピースがバラバラになるような感覚に陥る。けれどページを閉じた時にたちのぼるのは、穏やかな力強さだろう。生きることの淋しさと喜びをそのまま縫い合わせて模様にしたような、愛おしい作品だ。

「青春と読書」2016年11月号掲載


谷瑞恵さん
撮影/冨永智子
谷瑞恵(たに・みずえ)
1967年三重県生まれ。三重大学卒業。97年、『パラダイスルネッサンス―楽園再生―』で集英社ロマン大賞佳作入選後、集英社コバルト文庫で活躍。代表作に『魔女の結婚』シリーズ、漫画化・アニメ化された『伯爵と妖精』シリーズ、集英社文庫『思い出のとき修理します』シリーズ、オレンジ文庫『異人館画廊』シリーズ、『拝啓 彼方からあなたへ』『がらくた屋と月の夜話』などがある。


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