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RENZABUROスペシャルエッセイ

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反人生

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『反人生』著者:山崎ナオコーラ

定価:1,400円(本体)+税 8月26日発売

「人生作り」には興味がない。
流れる季節を感じるだけで、世界はじゅうぶん面白い。


男と女、親と子、先輩と後輩、夫と妻……
山崎ナオコーラさんの最新刊『反人生』は、無意識にとらわれがちな人間関係の役割や常識を超え、新しくゆるやかな連帯のかたちを描く小説集です。
著者による特別エッセイ、ぜひご一読ください。



●『反人生』刊行記念エッセイ

普通の人には人生がない      山崎ナオコーラ

 世界は見るだけで面白い。自分だけの人生など築かなくても、世界を見ていれば十分に幸せになれる。ナンバーワンはもちろん、オンリーワンにもならなくていい、その他大勢のままで存分に世界を楽しもうではないか。
 以前、友人が私の一連の作品を「傍観小説」と称してくれたことがあった。言い得て妙だ。私の書く小説のほとんどの主人公が世界を見ているだけだ。たいして人生を生きていない。
 私は本というものを読みながら常々、「どうしてすべてのジャンルの本が人生指南書じみているのか」と疑問を抱いてきた。小説でさえ、人生に関する本が多い。「どう生きるか」ということを教えたり教わったり、千年も繰り返してきて、これからもやり続けるのか。うんざりだ。私は小説の「物語性」を否定する気はないが、物語が人生によってばかり作られるのは良くないと思っている。
 すべての人が、人生を紡ぐわけではない。そりゃあ、面白い人生を作る人はいる。あるいは、静かだけれどきちんとした人生、というのを紡ぐ人だっているだろう。でも、人生作りに興味がない人だっている。世界を見るだけで生きていける人だっている。
 たとえば、私は自分の人生にまったく興味がない。普通のつまらない生き方で結構だ。
 世の中には様々な作家がいる。ご本人に魅力がある作家もたくさんいらっしゃる。個性的な生き方をしていたり、変わった経歴があったり、性格や容姿がチャーミングだったり、人間性が優れていたりする人もいる。しかし、私は違う。普通の人間で、取り立てて書くような経歴がなく、個性はない。それでも、書きたいことがいっぱいあって、一生作家を続けようと思っている。
「誰もが、自分の人生においては自分が主人公」という考え方が嫌いだ。脇役だって、木が風にそよぐのを見たり、洗濯の泡に指で触れたりして世界を感じることができれば十分に楽しんで生きていけるのだから、主人公になんてならなくたっていいではないか。
 コーヒーの匂いやサンドウィッチ作りに価値を見出せば、結婚や戦争からも逃げられるぞ。そういう思いで書いた小説が『反人生』だ。

山崎ナオコーラ(やまざき・なおこーら)
1978年生まれ。2004年「人のセックスを笑うな」で第41回文藝賞を受賞し、作家となる。著書に『カツラ美容室別室』『論理と感性は相反しない』『この世は二人組ではできあがらない』『ニキの屈辱』『昼田とハッコウ』『ボーイミーツガールの極端なもの』『可愛い世の中』など。
目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。


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