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担当編集のテマエミソ新刊案内

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よだかの片想い

  • 紙の本

『よだかの片想い』著者:島本理生

定価:1,300円(本体)+税 4月26日発売

刊行記念トークイベント! at 代官山・蔦屋書店(2013年5月16日)
島本理生さん×瀧井朝世さん


 24歳女子の不器用な初恋の行方は!?

恋愛小説のつもりが、
ひとりの女性の成長を描いてました。


顔の左側を覆うアザがあり、恋愛をあきらめていた理系女子大学院生のアイコ。
自分の顔を肯定的に受けとめてくれる男性、
映画監督の飛坂と出会い、はじめての恋をする。
けれど、彼の気持ちがまったくわからず、
時に妄想し、暴走し、大きくはずした行動をとってしまう。
恋愛小説ならではの切ない痛みがありながらも、どこか微笑ましく、
あたたかな余韻を残す本作。
今回はその創作の過程を、著者である島本理生さんと
『生まれる森』をはじめ何度もインタビューでお話をされてきた
ライターの瀧井朝世さんとで語っていただきました。

読者の方々からの質問への回答も、素の島本さんが垣間見えて必読です!

瀧井 今回の『よだかの片想い』の出発点というのはどこにあったんでしょうか。

島本 書きはじめたのは三年ぐらい前で、顔をテーマにした小説を書きたいというところがスタート地点でした。雑誌を見ていると顔にシミやシワ、傷のひとつもない女の人たちばかり載っていますよね。もちろん芸能人の方はプロフェッショナルなので、そういうところは一番気を遣っていらっしゃると思うんですけど。でも、年齢より若く見えて、シミやシワや傷がなければないほど美しいという価値観に全体が偏っているんじゃないかと感じたんです。そうじゃない価値観もあるだろうし、外見に対する表現ってもっといろいろ可能性があるんじゃないかと思い、それを小説で表現したいと思いました。

瀧井 それで顔の左側に大きなアザのあるアイコちゃんという主人公が生まれたんですね。出だしのところからもう、秀逸ですよね。彼女は小さい頃、アザがコンプレックスではなくて、学校で男子に「あいつのアザの形は琵琶湖だ」と言われてもちょっとうれしかったくらいなのに、先生が「なんてひどいことを言うんだ!」と怒ったことでこれは恥ずかしいものなんだと認識する。本来の思いとは別の価値観が植えつけられる過程がリアルに描かれているなと思いました。

島本 大体コンプレックスって、自分では気にしていなかったのに人の何げない言葉によって生まれたりしますよね。傷つけたほうにしてみたらそんなつもりはなくても、本人にとっては一生のトラウマになることもある。そういうものからどうやって立ち直っていくのかという過程を書きたかったんです。

瀧井 アイコちゃんは理系に進み、恋愛経験もないまま二十四歳になってはじめて映画監督の男性に恋をする。この二十四歳という年齢はどうしてだったんですか。

島本 二十一歳や二十二歳くらいの初恋はまだあるかなと思ったんです。大学を卒業してさらに大学院に入って初めて恋愛をするとなると、大学デビューよりもっと勇気が要るんじゃないかなと思いました。

瀧井 でも彼女は臆病になるのではなく、突き進んでいく感じですよね。

島本 妄想が暴走しているところがありますよね(笑)。自分がはじめて人を好きになったりつき合ったりした頃の、相手は今何しているんだろうとか、本当はほかの女の人と会っているんじゃないかとか想像して一人で落ち込んだり盛り上がったりしていた感覚を思い出しながら書いていました。

瀧井 お相手を三十代前半の映画監督にしたのはどうしてですか。

島本 まず職業を考えました。美人が多い業界の男の人にしようと思ったんです。主人公のアイコちゃんにはそれを超えて魅力や価値があるということを伝えたかったので、あえてちょっとシビアな設定にしました。

瀧井 小説内で飛坂監督が撮った『十四歳』という短編映画の内容に言及されていますが、すごくいい作品ですよね。これはオリジナルなんですか。

島本 私が十代の頃に観ていた邦画のイメージが反映されています。映画がすごく好きなので。

瀧井 イメージした監督か作品はあったんですか。

島本 全然違うかもしれないんですけど、岩井俊二さんの映画がすごく好きで観ていました。でもお会いしたことはないので、もちろんモデルというわけではなくて。飛坂さんのイメージに関しては、また別の、実際の映画監督の男性に取材しました。人柄も含めて、映画監督という職業につく男の人はどういう人か感じ取りたくて。取材をしてみて、人と接するのが上手だなあって思いました。映画の現場は大勢の人に気を遣って動かしていかなくてはいけないせいか、ちょっとした会話もすごく気がきいていて。

瀧井 飛坂さんもそういう感じ。モテそう。

島本 とにかく主人公と対照的な男性を考えました。生真面目で恋愛慣れしていなくて、一直線な女の子を受けとめてくれるけれども、なかなか恋愛が成就しないような相手ってどんな人だろうって考えたときに、少し影があって、でも女性の扱いがすごく上手で、相手の心を救うようなことを言ってくれるという男性像ができ上がってきました。

瀧井 二人の家庭環境も対照的ですね。監督は家庭の事情が複雑ですが、アイコちゃんは両親から愛情を注がれている。特にお母さんがいい味を出していますよね。

島本 今回の小説はアザという大きなキーワードがあったので、それ以外に重い要素を入れると話全体が重たくなると思い、主人公を温かい家庭の子にしました。これを書きはじめた頃は『あられもない祈り』、その後に『アンダスタンド・メイビー』という、どちらも重めの小説を書いていたんですよね。それで軽くて爽やかなのを書きたくなった、ということもあります。

瀧井 確かに『よだかの片想い』は明るさのある、キュートな恋愛小説。ただ、恋愛のいろんな局面が描かれるので、切なくなったり胸が痛くなったりもしました。

島本 今回は主人公の成長を書きたかったんです。タイトルも本当は『よだかの初恋』か『よだかの恋』のほうが合っているんですけど、主人公の中の切なさや痛みや強さをより強調して伝えたくて、あえて「片想い」という言葉を使っています。

瀧井 「よだか」を選んだのはどうしてだったんですか。

島本 なんとなく書き始めたときから宮沢賢治の『よだかの星』のイメージがありました。でも顔にアザがある女の子の話で『よだかの星』を使うのは、インパクトが強過ぎるかなと思い、迷っていて。その頃に実際に顔にアザのある方のノンフィクション本を読んでいたら、そういう方たちが集まって『よだかの星』を読んだという記述があったんです。顔にアザのある方が『よだかの星』の物語に対してなんらかのシンパシーを抱いたことを知って、ならばややこしく考えずに『よだかの星』の強くて孤独で、でも美しいイメージをそのまま小説のタイトルに反映させよう、と思いました。

瀧井 『よだかの星』のよだかは醜いといってみんなから嫌われて、苦しみぬいて星になりたいと思うけれども星からも拒否される。最後も切ないですよね。決して『みにくいアヒルの子』のような逆転劇にはらない。

島本 主人公のよだかがいろんな動物にいじめられるなかで、タカに名前を変えろって言われますよね。でも「名前は変えない」と言う。名前を変えるぐらいだったら死んで星になりたいって思うところに、何かすごくその生き物のプライドというか強い精神性を感じるんですね。単純にいじめられて追いやられて星になる話じゃないんですよね、『よだかの星』って。それは今回の主人公の性格にもあてはまるかなと思いました。

瀧井 二人の恋の行方といいますか、この小説をどこで終わらせるかというのは、最初から考えていたんですか。

島本 この小説は全部で三百枚ちょっとあるんですけど、実は最初は前半の二百枚で終わっていたんです。誰にも見せずにこっそり書いていて、二百枚書いた時点で「もう完璧!」と思って集英社の担当の方に読んでもらったら「じゃあ膨らませてください」って言われて。自分では完璧だと思ったら、全然足りていなかったという……(笑)。最終的にはすごく内容が濃くなったので、プロはさすがだなと思いました。

瀧井 後半のエピソードは後から加えたということですか。

島本 途中で主人公と映画監督が牧場に行く場面があるんですけど、最初はそこで終わっていたんです。でもそれだとさっぱりした話になっていましたね。後半を書いているうちに、主人公がいろんな人に支えられていたんだと気づきました。大学院の女性の先輩が後半につらい目に遭って、女同士で深く結びつくところが書けたときに、恋愛小説だと思って書いていたけれど、それだけじゃないものが書きたかったんだなと気づきました。

瀧井 島本さんの小説って、主人公がその先も生きていけると思えるような、成長や光が見える結末が多いと思うんですが、これはご自身の意思によるものですか。

島本 そうですね、最終的には読んだ人が少し救われた気分になったり、生きていく上でなにか少しエネルギーになったりするものを書きたいなという思いがずっとあります。なので、絶望で終わるのはあまり好きじゃないんです。絶望的な出来事から回復するのはいいんですけれど。どこか遠くに自分の知らない、すごくつらい思いをしている人がいるとしたら、自分の小説の主人公がそのつらさを一緒に背負って、乗り越えていけるようなことを小説のなかでやりたいなという思いがすごくあります。

瀧井 小説を書くとき、最初にプロットをきちんと考えるほうですか。

島本 大体のプロットは立てるんですけど、出だしを書いてその次の場面を書くのではなくて、飛ばして山場山場を書いたりします。場合によっては、最初にラストを書いちゃったりする。最初から順番に書くと、結構ボリュームがあるものだと後半息切れして、描写のクオリティーがどんどん落ちてくるんです。後半すごく盛り上げなきゃいけないのにもう描写できない、みたいになったことがあって、それからは良い場面を思いついたら間を飛ばして書くようになりました。

瀧井 今、作家生活十二年目となりますが、十代でデビューしたときと今とでは何か大きな違いはありますか。

島本 デビューしたての頃は右も左もわからなくて、与えられた状況に対して自分が一生懸命アウトプットしていくだけでした。なので年々自由になって楽しくなってきたのを感じます。いろんな取材をしたり、いろんな人に会ったり、いろんなところに行ったり。もっとこういう本が書きたいという気持ちが出てきたり。

瀧井 少し前にインタビューしたとき「これからはもっと大人の話を書きたい」っておっしゃっていましたよね。

島本 はい。今度「読売プレミアム」というサイトで連載をはじめます。そのインタビューをうけて記事を読んだら「禁断」とか「官能」とか「めくるめく」っていう言葉が並んでいて。地元の女友達が「お母さんと一緒に見たよ」ってメールをくれて、さすがに恥ずかしくて、こんな友達ですいません、みたいな気分になりました(笑)。

瀧井 禁断の官能がめくるめく話なんですか。

島本 めくるめきたいですね! めくるめくにはすごく筆力が大事なんだということを実感しているところです。


読者から島本さんに質問!

Q 作家になったんだなと感じる瞬間は、いつ、どんなときですか。

島本 ほかの有名な作家の方とお会いしたときに一番実感しますね。昨年、村山由佳さんと対談したんです。私、中学生のときに地元の図書館で村山さんの本を借りたときの記憶が今でもはっきりあって。その方とこんなに熱く小説の話ができるなんてと思って、感動しました。


Q 好きなエッセイ集などがありましたら教えてください。

島本 さくらももこさんの『もものかんづめ』のシリーズ三作と、原田宗典さんの『スバラ式世界』はテッパンです。日常のちょっとしたことを書いているのに、何でこんなに笑えるんだろうと思って。笑えないところがないぐらい面白いです。なので、私、エッセイって笑いをとりに行かなきゃいけないものだと思っていたんです。

瀧井 島本さんのエッセイも笑えますよね。

島本 自分のダメな話をいっぱい書きました。世の中にはおしゃれな日常をさらっと書いてしかも面白い、洒脱なエッセイというものが存在するということは大人になってから知りました。


Q 小説とエッセイでは書くのにかかる時間や心境はどのように違いますか。

島本 全然違いますね。エッセイはとにかくネタを集めるっていう感じですね。

瀧井 日常でメモをとったりしていますか。

島本 iPhoneにメモしておいたりします。この前、知り合いの紹介で何人かのお笑い芸人の方たちと飲んだんですけど、ちょうど女性の色気についてのエッセイを書かなくてはいけなくて、「色気を感じる瞬間ってどこですか」って訊いたんです。そしたら「体に似合わないほど大きいサイズのバッグを持っていたとき」って言われて、えーってびっくりしました。大きさと華奢さの対比っていうことだと思うんですけど、それは女性目線だと全然気付かないですよね。そういうことをメモしています。


Q 明日誕生日です。十代最後の一年間をはつらつとやんちゃに過ごしたいのですが、理生さんお薦めのやんちゃなことはありますか。

島本 一日早いですけどお誕生日おめでとうございます。自分が十九のときはどうだったかというと、『ナラタージュ』を書き……大学の試験を受けられず中退しました。

瀧井 うん、やんちゃですね。

島本 はい(笑)。あ、でもそれは二十のときだったかもしれない。十九って難しいんですよね。十代気分ともちょっと違うし、大人の解放感にもまだ届かず。これはどなたでしょうか。(質問者に向かって)何かしたいこととかありますか。

―― 友達と旅とか。

島本 あ、いいと思います、すごく。

瀧井 それ、ご本人から回答を導き出しただけじゃないですか(笑)。

島本 はい、今、すごい乗っかった感ありますね(笑)。でも、私もそれぐらいのときに女友達と初めてヨーロッパに行って、うまくいかなかったところも含めていい経験だったので、旅はすごくいいと思います。


Q ラーメンが好きだと聞きましたが、どこの何ラーメンがナンバーワンですか。

島本 これは、ラーメンによってナンバーワンが違うんですよね……。博多ラーメンだったら南阿佐ヶ谷の駅から徒歩約二十分の場所にある「一歩」っていうラーメン屋さんがいちおしです。つけ麺だったら吉祥寺にある「えん寺」っていうベジポタつけ麺のお店。一見どろどろのスープなんですけど、野菜と果物が煮込まれているので自然な甘みが出ていて、重たくないんです。


Q 得意料理は何ですか。

島本 得意料理……って自称するって恥ずかしいですね(笑)。何年か前に「流星の絆」というドラマをやっていて、出てくるお店の看板メニューがハヤシライスだったんですよね。そのときハマってレシピにもいろいろ凝ったので、ハヤシライスはわりと得意です。

Q お薦めの日本酒を教えてください。

瀧井 島本さんには飲食に関する質問が多いですね。

島本 ラーメンと日本酒……おじさんみたい(笑)。青森の田酒っていうお酒がすごく、ほんとうにすごくおいしいんですけど、置いてあるところが少ないかな。あと飛露喜っていうお酒とか、今回の小説にも出した久保田とか。

瀧井 小説のなかでは久保田の萬寿でした。

島本 萬寿はちょっと高いんですけど、でもその下の千寿とかでも十分おいしいです。


Q 島本さんが恋をしたとき、一番感動したことはどんなことですか。

島本 えっと、何だろう。いろいろあるんですけど……。つき合ってから、この人ってこんな人だったのかっていうことがはじめてわかる瞬間ですかね。何か、家庭環境だったりとか。抽象的すぎますか。

瀧井 恋愛が成就したときとか嬉しいサプライズがあった瞬間ではないんですね。男性側も島本さんを感動させているってことに気づかないですよね、それは。

島本 そうですね、あとは相手がすごく自分のことを知りたいと思っていてくれるっていうことも感動しましたね。自分が悩んでいることとかつらいこととかを、朝までずっと飽きずに親身になって聞いてくれる人がいて、しかもその人が自分の好きな人だっていうことは、初めて男の人とつき合ったときにすごく感動したことでした。



島本理生(しまもと・りお)●作家。1983年東京生まれ。2001年、「シルエット」で群像新人文学賞優秀作受賞。2003年「リトル・バイ・リトル」が芥川賞候補となり、同年、野間文芸新人賞を受賞。2011年、『アンダスタンド・メイビー』が直木賞候補となる。他の著書に『生まれる森』『ナラタージュ』『大きな熊が来る前に、おやすみ。』『あなたの呼吸が止まるまで』『クローバー』『波打ち際の蛍』『君が降る日』『真綿荘の住人たち』『あられもない祈り』『七緒のために』などがある。

瀧井朝世(たきい・あさよ)●フリーライター。1970年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務を経てフリーライターになる。朝日新聞「売れてる本」欄、WEB本の雑誌「作家の読書道」を担当、「an・an」「波」「きらら」などで作家インタビュー・ブックレビューを執筆。TBS系列テレビ「王様のブランチ」でブックコメンテーターも務める。


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