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担当編集のテマエミソ新刊案内

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赤と白

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『赤と白』櫛木理宇

定価:1,300円(本体)+税 3月5日発売

第25回小説すばる新人賞対談
櫛木理宇『赤と白』
冷血的根性!!
飴村行×櫛木理宇

新潟の雪深い町で暮らす、高校生の小柚子と弥子。明るく振る舞う陰で、二人はそれぞれの事情を抱えていた。そんな折、小学生の頃に転校していった同級生・京香が現れ……。
3月5日発売の第25回小説すばる新人賞受賞作『赤と白』は、昨年『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞読者賞も受賞した、櫛木理宇さんによる少女たちの閉塞感と悲劇を描いた作品です。ホラー小説大賞の先輩・飴村行さんをお招きし、受賞者の櫛木さんとお話しいただきました。


 雪に囲まれて鬱屈する少女たち

飴村 『赤と白』を早速読んだんですけど、小説すばる新人賞=青春ものというイメージがあったので、ちょっとなめていたんです(笑)。そうしたら最初に、雪が嫌になるくらい降るシーンがあるじゃないですか。どこを見ても白だという。それが絶望を表していて、そんな場所で青春が始まっていくという構成がすごくいいなと思いましたね。

櫛木 ありがとうございます。

飴村 僕が住んでいたのは福島でもあまり雪が降らないところですが、会津のほうとかすごく降る地域もあるので、雪かきのつらさは若干知っているんです。だからこの小説に書かれている「無益で終わりの見えない労働」という感じ、あれはわかりますよ。

櫛木 これは新潟の中越地方が舞台なんです。私は同じ新潟でも違うところに住んでいますが、雪かきをしていると本当に、「人生の時間を無駄にしている」と思いますね。

飴村 雪の牢獄というか陸の孤島にいるみたいな感じもすごくわかります。わかりすぎて気持ち悪くなった(笑)。「なんでこんなところに生まれたんだろう」という疑問も出てきますよね。

櫛木 日照時間の少なさと自殺率の高さは比例すると統計でも出てますし、雪に閉ざされて日の照らないところにいると、ほんと陰々滅々としてくるんですね。それを「ここではないどこかに行きたいんだけど、でも一生出られないんじゃないか」という少女期特有の鬱屈につなげたかったんです。

飴村 彼女たちにはそれぞれすごいトラウマがあって、それがあまりにもリアルなので、「これが櫛木さんの実体験だったらなんて言えばいいんだろう」と思っていました(笑)。でも、ひとりの女の子が隠れて飲んでいるお酒がウイスキーのマッカランだとか、櫛木さんご自身がちょっと表れているんじゃないですか。

櫛木 いえいえ。私はビール党でビールしか飲めないんです。でもビールは高くて学生だと量が飲めないし、依存性も低そうなのでウイスキーにしました。

飴村 その子の酒量がどんどん増えていくところとか、酔いのせいで満腹中枢がばかになって深夜に冷凍のクリームコロッケをそのまま食うところとか、ぞっとしましたよ。あのエスカレートのしかたも実体験じゃないんですね(笑)

櫛木 ないです(笑)。お酒の量はそこそこ多いんですが、あそこまでじゃない(笑)。

飴村 それからイチゴみたいな名前の女の子、あの子がすごい。

櫛木 苺実(マイミ)ですね。

飴村 ウサギの皮をかぶったプレデターみたいなもんですよ。男には絶対書けないキャラクターでしょう。ああいう人が身近にいたんですか?

櫛木 はっきりといるわけじゃないんですが、クラスに一人はいるタイプの女の子、という感じで書きました。そのエスカレート型ですね。かつて少女期を過ごした人に「ああ、いるいるこういうの」と思っていただけたらいいな、と。

飴村 僕は高校時代、友だちがいなくて孤独だったので、基本的に高校生活が描かれた話を読むといらっとするんです。しかも男子校だったから、男女が一緒のシーンがあるだけで腹が立つ(笑)。でもこの小説は最後まで読んでしまいましたし、最後のぐちゃぐちゃなすさまじい世界は女性にしか書けんと思いました。『赤と白』というタイトルは、雪とか血とか、そういうイメージなんですか。

櫛木 そうですね、雪とか血とか火とか。でも、読んだ方の頭にそれぞれ浮かんだものでいいと思っています。


ふたつの賞を一気に受賞!

飴村 創作活動はいつ頃から始めたんですか。

櫛木 大学生の頃に一度小説すばる新人賞に応募して、一次しか通らなくて、その後は普通に就職しました。ふたたび本格的に書き始めるまでに二十年ほどのブランクがあります。

飴村 今回の受賞の前に、ホラー小説大賞の読者賞も受賞されているんですよね。

櫛木 二〇一一年十一月末締め切りのホラー小説大賞に向けて『ホーンテッド・キャンパス』を書き、そのあと三月末締め切りの小説すばる新人賞に向けて『赤と白』を書いた、という感じです。

飴村 ホラ大は初めての応募で受賞したんですか。

櫛木 そうですね。

飴村 腹立つわーーっ(笑)。僕は本当に苦労してホラ大を取ったので。でも、いいんです。才能ってそういうものですよ。周囲の方は櫛木さんが小説を書いていることをご存じなんですか。

櫛木 受賞が決まったので、さすがに親には言いましたが、地元の知り合いには基本的に内緒です。さいわい残業の少ない仕事なので、家に直帰して夜に原稿を書いています。

飴村 僕は朝五時に起きて、カフェインを飲んで目を覚まして、そこから昼ぐらいまで一気に書くんです。ちなみに、『粘膜』シリーズを書くときは必ず、ザ・スターリンというバンドの『虫』という曲を聴く。するとなんというかこう、爛れた闇みたいなものが出てくる(笑)。櫛木さんは東京進出とか、考えていないんですか。

櫛木 いやいや、ないです。本当に作家になれると思っていなかったので。今もあまり思っていないんですけど。

飴村 僕は最初漫画家志望で、"第二の吉田戦車"を目指していろんな漫画誌に原稿を持ち込んだけど、うまくいかなかった。映画が好きだったのでそこから脚本のほうへ行って、トレンディードラマにバイオレンス要素を加味したわけのわからん原稿を賞に応募し続けて、二年半を無駄にしました。そこから、派遣工の地獄に落ちていったわけです。派遣工って、やったことありますか?

櫛木 いや、ないです。

飴村 あれ一回やったほうがいいですよ。本当に地獄ですから。大学中退して十年間派遣工をやり続けた挙句、三十四歳の時に親父が病気で亡くなったんです。実家に帰ったら兄貴に「お前、三十四年生きてきただけのでっかい赤ん坊みたいだぞ。四年待ってやるから、また大学に入ったつもりで何かやれ」と言われて。振り返ってみれば物語を作ってそれで生計を立てるという軸だけはぶれていなかったので、ホラーが好きだという理由でホラー小説大賞を目指したんです。だから受賞を知らせる電話がきたときは、衝撃で力が抜けてへなへなとなりました。でも、すべての経験が今小説の役に立っていることを考えると、エリート教育を受けたみたいなものかな、と(笑)。それに比べると櫛木さんは肝が据わっているし、冷静ですよ。すごいね。

櫛木 そんなことないです(笑)。

飴村 確か台湾だったと思うんですけど、僕の『粘膜』シリーズの日本語版を売っているサイトがあって、中国語で感想が書いてあったんです。「殴打」「串刺」「阿鼻叫喚」みたいな漢字がばーっとあって、最後に書かれていたのが「作者冷血的根性!!」という言葉。それを見たとき、「あっ、俺の才能は冷血的根性なんだ、根性で賞を取ったんだ」と思いましたね。中華民族が引くくらいの根性を持った人って、なかなかいないですよ(笑)。

櫛木 確かに(笑)。


B級ホラー映画の面白さとは

飴村 僕はホラー映画が大好きなんですが、櫛木さんもその影響を受けているんじゃないかと思って。例えば雪に閉ざされた中で狂っていく感じは『シャイニング』みたいだな、と。

櫛木 ああ、影響あると思います。

飴村 フェイバリットムービーはありますか? 僕の場合、『悪魔のいけにえ2』と『ビヨンド』と『サスペリア』ですが、日によってランクが変わります。ちなみに今日は走ってここへきたので、ヒロインが逃げ続ける展開の『悪魔のいけにえ2』が一位(笑)。

櫛木 『悪魔のいけにえ』ではなくて『悪魔のいけにえ2』なんですね。

飴村 「1がいい」という人が多いけど、1は真面目過ぎるんです。2の何がすごいかというと、ちょっと語らせてもらっていいですか(笑)。

櫛木 どうぞどうぞ(笑)。

飴村 1の最後でお兄ちゃんは、トラックに轢かれて死んどるわけです。だから2ができると聞いたとき、どうやって生き返るんだろうと思った。で、見てみたら、開始から三十二分くらいで例のイカれた兄弟が出てきて、弟のレザーフェイスがチェーンソーを振り回すんだけど、それがお兄ちゃんの頭をガッとかすめるんです。すると、頭の中に鉄板があるわけですよ。その瞬間「あっ、何か外科的処置を受けて延命したんだな」とみんな思う。でもそれで終わり。その後一切説明がない。僕が思うに、B級映画といってもハリウッドのものなので、どうやって生き返らせるか大の大人が話し合ったんだと思う。でも結局、お兄ちゃんの頭に鉄板を入れて、説明は観客に丸投げ。「いいじゃない、これで。B級ホラーなんだから」と開き直りで済ませたんです。そこに僕は惚れましたね。

櫛木 頭に鉄板が入った男が、痒いからとライターで炙った針金で頭を掻いていたのは2でしたっけ?

飴村 そうです、2です。見ました?

櫛木 はい、見ました。

飴村 あれ、素晴らしいですよね。二丁チェーンソーで戦うデニス・ホッパーとか。

櫛木 監督のトビー・フーパーも、確か「本当は2のほうが撮りたかった」と言っていましたね。

飴村 あっ、それは知らなかった。なかなかのホラー通ですね。

櫛木 いえいえ、そんなことはないです。

飴村 僕はそのあたりのB級感覚を継承したんですけど、櫛木さんは『シャイニング』みたいな格調高い感じがする。だめですか? B級ホラーは。

櫛木 ほとんどB級ホラーしか見ていないような気がします(笑)。『バスケットケース』とか『蝋人形の館』とか、ああいうのが好きですね。最近だと『クライモリ』が良かった。

飴村 じゃあ、もっとそれを出しましょうよ。好きな人ができたけどその人の頭から鉄板が見えとる、でも理由を聞けないで終わる、みたいな(笑)。ただ、やっぱり現実に近い世界を書く櫛木さんのほうが、僕より度胸があるんですよ。僕はそれが怖くて、架空の世界に逃げるんです。

櫛木 頭がかゆいから針金を突っ込んでかくみたいなのは、やってみたいですけど(笑)。


西村寿行作品に通じる 破滅の美学

飴村 櫛木さんには、西村寿行さんの影響もあるような気がしたんです。例えば、短いセンテンスを積み重ねていくところとか。

櫛木 ぽんぽんぽんと短い文章でつないでスピード感を出すところは、寿行さんから学んだかもしれないですね。

飴村 初期の寿行さん、特に昭和五十年代がそういう感じですよね。ちなみにどの作品がお好きなんですか。

櫛木 一番最初に読んだのが『滅びの笛』だったんです。鼠が大発生するやつ。

飴村 怖い怖い怖い。ああ怖い(笑)。『魔の牙』は知ってます? 僕はあれがフェイバリットなんですけど。

櫛木 暴風雨の山荘に閉じ込められる話ですよね。

飴村 山荘に逃げ込んだ銀行強盗のところに警察が来て、暴力団の追手が来て、さらにその周りを狂犬病の犬に噛まれたニホンオオカミに囲まれるという絶望の物語。最後に生き残るのが猟犬だけという選択もひっくるめて、「ああ、すごいな」と感動しましたね。櫛木さんはどうして寿行さんを読まれるようになったんですか。

櫛木 もともと家にあったんです。歳の離れたいとこが、自分が読んだ本を次々にうちへ送ってきていたので。「そんなものを読むな」とか言う親ではなかったので、西村寿行さんも普通に読んでいました。ただ『滅びの宴』は、ちょっとひどかったですね(笑)。

飴村 東京の路上じゅうで美女が手込めにされていく、という。

櫛木 後半はそういうシーンの連続で、ただひたすらそのまま滅亡に向かっていくという話ですね。

飴村 そういう話を女性が読んで、どうなんですか。破滅ぶりがホラー的だとか、人が破滅しとってすごいわとか、そういうノリですか。

櫛木 『宴』はわりとあっけにとられながら読んだような(笑)。でもあそこまでいくとある意味爽快ではあります(笑)。

飴村 でも考えてみれば『赤と白』も、母親が付き合っていた男にいたずらされた女の子の鬱屈がどんどんたまっていって、最後に爆発する。破滅への行程があってそれが昇華するというのは、破滅の美学ですね。

櫛木 そうですね。寿行さんは不幸な女性を描くけれど、女性は結構強いものというとらえ方もしていますよね。後期の作品では戦うキャラクターも多いですし。

飴村 そのあたり、櫛木さんにも「冷血的根性!!」が備わっているように思います(笑)。

構成=山本圭子/撮影=chihiro.

※「青春と読書」3月号より転載

あめむら・こう●1969年福島県生まれ。2008年『粘膜人間』で第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞しデビュー。著書に『粘膜蜥蜴』(日本推理作家協会賞〔長編及び連作短編集部門〕)『粘膜兄弟』『爛れた闇の帝国』等。現在、集英社WEB文芸RENZABUROにて「ジムグリ」を連載中。

くしき・りう●1972年新潟県生まれ。2012年『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞読者賞を、『赤と白』で第25回小説すばる新人賞を受賞。近著に『ホーンテッド・キャンパス幽霊たちとチョコレート』がある。


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