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担当編集のテマエミソ新刊案内

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クレアモントホテル

  • 紙の本

『クレアモントホテル』著者:エリザベス・テイラー 訳:最所篤子

定価:714円(本体)+税 10月20日発売

自立し、恋心を忘れず、毅然としている。こんな老後を過ごしたい。

 表題の「クレアモントホテル」は、ロンドンの一角にある長期滞在者用ホテル。夫に先立たれ、娘とは折り合いが悪くて一緒に暮らせない老女、パルフリー夫人は、新しい生活への期待を胸に、このホテルにチェックインします。初日のディナーに盛装をして向かった彼女を待っていたのは、似たような境遇の老人たち。"新入り"を無遠慮に観察するのが何よりの楽しみである彼らの好奇の視線にさらされて、居心地が悪くなるパルフリー夫人。そんな中、ボス格の老婦人が声をかけてくれて、 "とりあえず明日からは言葉をかわせる人ができたわ"とほっとしますが、本音で話が合う友人は見つかりそうにありません。

 老いてもなお、背筋をきちんと伸ばし、TPOにあわせた装いを身にまとい、威厳と品を失わずに生きようとするパルフリー夫人ですが、老いという厳しい現実からは逃げられません。何度留守電にメッセージを残しても訪ねてきてくれない孫、食事しかイベントのない毎日、しょっちゅう時計をながめるけれどちっとも動かない針…。体は以前のように動いてくれない。

 そんな味毛なく灰色の毎日が、ある日街で美青年ルドと偶然知り合うことで一変します。孫と変わらない年のルドと心を通わせ、仲のよい友人として楽しい時間を過ごすようになるのです。物語はここから動き始めるのですが、担当Yは正直に言ってルドとのストーリーが始まる以前の、クレアモントホテルの個性派な面々にやられてしまいました。

 確かにみな詮索好きでおせっかいで、他人の細々した行動を観察してばかりいるのですが、彼らの視線や会話には温かいユーモアとウィットがあり、孤独な毎日と向き合いながらも、人生最後の日々を楽しんでいるのです。パルフリー夫人も少しずつ彼らと親しくなっていきます。クレアモントホテルには老人の長期滞在客が多いとはいえ、普通のホテルですから、自分で身の回りのことができなくなったら、ケアホームのようなところか病院か歓迎してくれない家族のもとへ移らなくてはいけないわけです。彼らがこのホテルをチェックアウトするということは2度と戻ってこれないということ。だからこそ、ひとりでホテルで過ごせる最後の日々の貴重さをわかっていて、大切に過ごしているのです。

 自分もこのような自立した老後が過ごせたらいいな…。ルドのような美青年との出会いはあまりにも現実離れしているけれど、老いは確実にやってくるわけで、そのときどんな場所でどのようい過ごせるのか…ふと考えてしまいました。何かヒントが見つかりそうな作品なのです。

(編集Y)


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