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担当編集のテマエミソ新刊案内

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楊令伝 五 猩紅の章

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『楊令伝 五 猩紅の章』北方謙三

定価:1,600円(本体)+税 4月25日発売

 蘇える画伯、陳仁柔

 余は覚醒した。
 ここはどこじゃ。この美しくない国は。
 余が長き眠りについたのは、かの憎っくき蒙古人がわれらが大宋国を侵攻してきた時じゃった。余が唯一の上官たる青蓮寺総長・聞富師師が、余に眠りを命じたのである。術師は神機軍医と呼ばれた力道全。余はそのまま遠く蒙古人の魔手を逃れて、東の蓬莱列島の地下で冷凍睡眠を続けたのである。いつの日にか蘇えって蒙古人を倒すために。

 あれから730年。
 国会図書館で調べたところによれば、わが国は、憎っくき蒙古人の立国せる元、そのあとの明、北方女真民族の清、いろいろあって今は中華人民共和国という餃子の生産地になっていて、各国の放火犯が松明をもってかの国を目指して走っておる由。
 余が生まれ育った大宋国はいつのまにか南宋ということになっておったわ。
 しかし、である。この日本とかいう醜き国をさらに醜くしておるのは、またしてもあの蒙古人ではないですか。お相撲という国技の上位を簒奪独占し欲しいままにふるまい賂にも似た懸賞金の束を毎日ふんだくっておるのはまたしても青とか白とか赤とかの蒙古人めら。アマとかいう女性力士まで外交特権でと土俵にあがっておるとか。

 それはさておき、この国に氾濫しておるのは、なんと余が描きたる絵ではないですか。
 わが名は陳仁柔、人呼んで神仙画伯。
 青蓮寺の要職にありといえども、それはおおっぴらにはできぬので、建前上は絵師ということにしておったわけじゃが、余の描きたる絵はどんどん買い手がついて値上がりし、かつて梁山あたりの水たまりにおったといわれる108人の鼠族をなぐり描いた絵なぞはベストセラーになりよったものよ。ぬははははは。
 その、鼠族らを横長の巻き物を描いた余の絵をじゃのう、集英公司なる版木屋で北方とか申す輩の手になる偽書「水滸伝」「楊令伝」なる小書、大書、宣伝販売用のもろもろもろもろに、おのれ無許可で使いおってからに。いくら踏んだくったろうか。海鰍船十隻分の銀塊とかじゃなむはは。それにしても、「英」雄「集」うじゃの、「北方」謙三じゃの、余の嫌いな名前を並べくさって、これはもうますます天に替わって道を行わねばいけんのよ。
 毒を塗った懸賞銀の束を憎っくき蒙古人につかませればよい。そのためには、銀がいるのじゃ銀が。銀は集英公司から出させればよろしい。
 時はあたかも集英公司、偽書「水滸伝」の小書完結し、それを読了した読者を「楊令伝」にひきずりこもうという宣撫工策のまっ最中。そのためにまたしても余の傑作絵画を使っておってからに。ぬはははは。

 これは余の談、いや余談じゃが、いつの間にやら、「第五巻・猩紅の章」まで刊行がすすんでおって、ほんによく書く奴じゃの北方めは。2ちゃんねるなる諜報放送によれば、かの楊家将のごとくに、北方謙一、北方謙二、北方謙三がとっかえひっかえ書いておるそうで、そう聞けば納得もするものでもあるが、たしかにこれは余談であった。余が集英公司の宣撫策の片棒かついでどうすんねん。

 というわけで。神保町集英社に単身のりこんだ余の相手に出てきたのは、かの美髯公・朱仝を40%天地縮小したような、むさき髭だらけの社畜Yという男じゃった。会話は漢詩の交換で行われた。しかしこのY、科挙にも武挙にも縁がなかったようなその下品な顔と頭蓋の内側が正比例しておるようで、韻も仄もない漢詩もどきを量産するのはいいのじゃが、きゃつの漢詩もどきを理解するに、余が集英社を告訴して莫大な賠償銀をゲットしそれをYとふたりで山分けにしようというではないか。なんで山分けなのか。しかも、絵師たる余に向かって、わしが銀塊詐取の絵ば描いちゃるけん、とはなんたる言い草。魑魅魍魎邪悪奸賊じゃ。

 青蓮寺のナンバー2じゃった余が言うのじゃから間違いないわい。
 醜き国に悪い奴ら。矣兮。余は、えーん、大宋国に帰りたいよう。
(編集Y)


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