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レンザブロー インタビュー

作家 織田啓一郎さん

「半径5メートルの妄想力」

 食べるまでが大変だ。風味が強いし、クセもある。ドリアンか、それともくさやか。
でも、一口食べてみると――。
『谷中ゲリラアーチスト』はそれに似ている。あまりに生々しい臭気を放つ内容に、嫌悪感を覚える人も中にはいるだろう。ただ、一度ハマってしまえば、この独特の世界観から抜け出すことは容易ではない。

 作者の織田啓一郎さんは、異色の経歴の持ち主だ。大学卒業後、陶芸家の内弟子、カフェマネージャー、おもちゃメーカー従業員、民俗学者を目指して塾講師、雑貨店の店主etc.時には喧嘩別れや、不義理を重ねて退職したこともあるという。本作には、数々の仕事に携わってきたそのエッセンスが詰め込まれている。

谷中ゲリラアーチスト 織田啓一郎

『谷中ゲリラアーチスト』
徳間書店/定価:1,500円(本体)+税

 

織田啓一郎さん

【プロフィール】
織田啓一郎

1968年広島県生まれ。備前焼陶芸作家の内弟子、衣料雑貨店の経営などを経て、現在は小説家。『谷中ゲリラアーチスト』でデビュー。

 自分は芸術家として大成すると信じて疑わない男、梅田博(34歳)。玩具デザイン会社でアルバイトとして働いてはいるが、会社に遅刻は当たり前。同僚のセフレには罵詈雑言。生意気な若手社員に馬鹿にされると思わず殴ってしまう。元暴走族総長で会社社長の橘が梅田のことを評価しているおかげで、なんとかクビにならずに済んでいる毎日だ。
 ある日、梅田は大手クライアント依頼の、新キャラクターの考案を任されることになる。考えたキャラクターは、筋骨隆々「クレイジーマッスルくん」。意外にもこれが採用され、自身が望む偉大なアーティストとしての道へ一歩踏み出したかに思えるが……。

 黒人のSP相手に果敢にタックルをかますイケイケ窓際社員。ベラルーシ人の妻を持つにも関わらず、男性社員・女性社員1人ずつと不倫中の副社長。謎の呪文を唱えるアパートのお隣さん。
 いわゆる普通の登場人物が、「1人も」出てこないのには、理由がある。
 「人と繋がることの限界がどこにあるのか、描きたかったんです。アパートや会社って、本来会う必要のない人間が一堂に集まる場所じゃないですか。色々な職場で働いたからわかるんですけど、そこに居る人たちとは、価値観も違えば世代も違う。ましてや家族でもない、儚い関係ですよね。合わない人とも否応なく触れ合わなきゃならない状況の中で、人は何を思うのか。それを表現したかったんです。結果的に今思うこと、ですが!」

 怒鳴り声ばかりが響く梅田の住むアパートには、どこか下町特有の匂いが感じられる。様々なタイプの人間が雑多に入り交じる谷中の町の情景をよりリアルに表現することができたのは、織田さん自身が実際に谷中に住み、働いていたからだ。
 奥さんと共同経営していた谷中の雑貨店で、自分の作品を販売していたこともある。
 「原稿用紙80枚くらいの短編をプリントアウトしてホチキス留めして、雑貨の隣に置いて売っていました。僕の作品は、小説の賞に出しても絶対に通らないと思っていたので、もう自分で売るしかない。でも、全く売れなかった(笑)。近所の人に『なんだあれ』とぼろくそに言われた時もありましたね。いい経験になりました」
 その後、山形で開催されている「小説家(ライター)になろう講座」を受講したことがきっかけで、織田さんの才能が見出される。テキストを提出した際に、講師兼世話役の池上冬樹さん、講師として招かれていた作家の白石一文さんの目に留まり、出版まで漕ぎ着けた。
 「先生方からは、僕のわけのわからない経歴を生かして小説を書くべきだと言われています。プロットとか想像力も大事ですが、自身の体験を生かした『妄想』で書いていきたいとは思っていますね。
 今書いているのも、僕の実体験を元にした連作短編です。ある映画のメインキャストとして出演する予定だった時の顛末と、当時着付け教室で働いていたので、それを絡めた青春小説。なるべく大上段にしないように、せこい舞台で、チープな自分の体験を落とし込みながら、これからも小説を書いていきたいと思っています」

 最後に、織田さんは衝撃的な言葉を残してインタビュールームを後にした。
 「ちなみに雑貨屋は、開店して1年経ったら、隣のゴム工場が爆発して火事になりまして、うちの店も燃えて閉店しました。散々でした。ただその雑貨屋誕生から火事にいたるまでにも、色々なエピソードはあるので、それも書きたいなと思っているんですよ!」

 困難を自らの創作欲に変換する力が、織田さんにはある。

 
映像化コーナー

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