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レンザブロー インタビュー

作家 里見蘭さん

「本を売る“黒衣”たちの物語」

 「ベストセラー作品は、果たして自然発生的に生まれるのか、それとも人為的に生むことができるのか。その疑問は常に抱いていて、この作品を書くフックになりました」
 『ミリオンセラーガール』は、出版社で書店営業を主な仕事とする販売促進部、通称「ハンソク」が舞台だ。出版不況が叫ばれ久しいが、それでも毎年、何十万、何百万と売れる本は必ず登場する。そこには、作家や編集者だけではない、本を売る「仕掛け人」たちの存在があるのではないか。営業部門の経験者に何度も取材を行い、出版関係の資料を読み込み、この作品を書き上げたと里見蘭氏は言う。

ミリオンセラーガール 里見蘭

『ミリオンセラーガール』
中央公論新社/定価:1,500円(本体)+税

 

里見蘭さん

【プロフィール】
里見蘭

1969年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年に講談社X文庫『獣のごとくひそやかに』(言霊使いシリーズ)で小説家デビュー。
2008年に『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。今作の他に、『さよなら、ベイビー』などがある。

 主人公の沙智は、アパレル企業に入社して1年程でショップの店長に抜擢され、激務をこなしていた。そんなある日、会社の大規模リストラがあり、突然解雇されてしまう。失意の中、持ち前の明るさを生かし、ファッション誌の編集者を目指して出版社へ転職するが、入社式で命じられた配属先は、希望とは正反対のハンソクだった。
 「出版社の編集者を主人公にすると、どうしても華やかなイメージを読者が思い浮かべてしまう。でも、営業部、特に書店回りをしている部署を題材にすれば、本を売る仕事において、いい意味での泥臭さみたいなものが表現できると考えたんです」
 仕事を覚え始めた沙智に、ある特命が下る。それは、無名作家の小説を「ミリオンセラーにせよ」というものだった。
 自分の思ったことは、相手が上司であろうと怯むことなく口にする。そんな沙智のいい意味での素直さが、周りの人々の心を動かす。あることがきっかけで本への愛情を表に出さなくなった伝説の書店員、辰巳。冴えない風貌や口調からは想像できないが、本の部数を決定する際には誰よりも冷静で合理的な判断を下す販売部の番場。チャラい行動ばかりが目立つが、作家や小説のことになると人が変わったように熱い男に変身する編集者の玉村。周りにいる超個性的な登場人物たちを半ば強引に巻き込みながら、編集・営業・書店が三位一体となって、ミリオンセラー作品を生み出すために奮闘する。
 「物語が地味になりすぎてもいけないので、ちょっと異質な要素を入れようと思って、文化系女子とはかけ離れている肉食的な女子を描こうと思いました。それが沙智です。とにかく欲望に忠実な子なんです。周りの登場人物も、彼女に見合った変な人たちになっていきました」

 登場人物の描き方だけではなく、情報を巧みに読者に提供しつつ、最初から最後までテンポ良く進む展開などから、エンターテイメント小説としての完成度の高さが窺える。
 「学生時代に伝奇アクションものを書いて、スーパーダッシュ文庫小説新人賞に応募したことがあります。この作品は、出版コードに引っかかる言葉が多すぎて、最終候補に残すことができないと編集者から言われて、諦めました。その後、編プロに勤めて、ドラマ、映画、ゲーム、漫画、ありとあらゆるジャンルのノベライズに携わりました。基本的には原作ありきですので、それを生かして、いかに小説としてうまく表現するのか考える。なので、職人的な意識でやっている部分がありましたね」
 『ミリオンセラーガール』では、出版業界独自の「再販制度」や「取次」などの仕組みについての説明が丁寧にされている。数ある情報を違和感なく物語に組み込む技術は、そういった環境の中で培われたものだろう。
 「結局、ベストセラーがどのようにして生まれるのか、何か答えがあるわけではないんです。でも、本を売ってくれている人たちの力がいかに大きいものなのかを、学び、描くことができた。それが、作家としての自分にとっては物凄く大きな収穫でした。反面、情報を伝えることが優先されてしまった部分はありますね。プロットもびっちり書き込んでいて、登場人物が著者の手を離れて動くようなことはなかったんです。今度は、書いているうちに自分でもコントロールできなくなるような、勢いのある作品を書きたいと思っています。今考えているのは、芸術大学を舞台にした、剣道部主将を務めている男性と、画家として才能のある女性が主人公の青春恋愛小説です。こちらはプロットをがちがちにせずにやっていこうと思っています」
 2008年には『彼女の知らない彼女』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞。前作『さよなら、ベイビー』は、コメディタッチでありながら本格ミステリーでもあり、話題になった。異なるタイプの小説を描き分ける里見さんの今後に注目したい。

 
映像化コーナー

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