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レンザブロー インタビュー

画家 山口晃さん

古の日本画と絵師たちが、時空を超えて身近に

 上野桜木のアトリエ。
 物の少ない12畳ほどの空間に、言問通りを行き交う車の音が、微かに聞こえる。
 壁に立て掛けられているのは、銀座「メゾンエルメス」の個展での作品『Tokio山水(東京圖2012)』。
 山口晃氏が、昨秋、平等院養林庵に奉納した襖絵を描いた場所も、ここである。

 六本木ヒルズや日本橋三越を浮世絵風に描いた作品や、成田国際空港出発ロビーの陶板の原画をはじめ、水村美苗氏の新聞連載小説の挿画など、氏の近年の活躍は目覚しい。
 また、母校の東京藝大助手室内に茶室風アトリエを造ったり、自由研究と称した、売店やお風呂などが合体した電柱構想図、馬の一部がバイクとなった絵など、その創作内容は、群を抜いて個性的だ。
 さらに、氏の日常が垣間見える、ご本人言うところの「ふやけた」エッセイ漫画『すゞしろ日記』も人気が高く、近く続刊が刊行される。

ヘンな日本美術史 山口晃

『ヘンな日本美術史』
祥伝社/定価:1,800円(本体)+税

 

山口晃さん

【プロフィール】
山口晃(やまぐち・あきら)

画家。1969年東京生まれ。群馬県桐生市育ち。
94年東京藝術大学美術学部油画専攻卒業。96年同大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修士課程修了。
大和絵や浮世絵を思わせる伝統的手法を取り入れながら、人物や建築物を緻密に描き込む作風で知られる。国内外の個展、グループ展の他、成田空港のパブリックアート、小説の挿画、CDジャケットなどを手掛けるなど、幅広い創作活動を展開している。
2012年11月に平等院養林庵書院に襖絵を奉納。
2012年11月に『ヘンな日本美術史』(祥伝社)、同年12月に2冊目の画集となる『山口晃大画面作品集』を刊行。

撮影 chihiro.

 『ヘンな日本美術史』は、そんな多忙な活動の中に書き進めた一冊。雪舟、岩佐又兵衛、円山応挙、伊藤若冲など、古の日本画界を彩る先達の作品、鳥獣戯画や絵巻の見立てが綴られる。
 原稿の元となったのは、カルチャースクールでの講演。受講者の一人だった編集者から、「本にしませんか?」と持ちかけられたのが単行本化のきっかけだが、講演終了後、刊行までに4年ほどの歳月を費やした。
 「話したことを文字で起こしていただいたのですが、それを見るのがまず辛いわけですね。大体、しゃべったことを起こしてもらうと句読点がないわけですね。この『ですね』がひたすら出てくる(笑)。自分の語りの癖で辟易して、話す内容の浅さと拙さに辟易して、もう読むに耐えないわけです」
 そうこうしているうちに、1年が経過し、ようやく文章化に取り掛かろうとするものの……。
 「文章が浮かぶスピードと記録するスピードが、一緒にならないんですね。絵ですと浮かんだものをどこかに放し飼いにして、その細部を描けるんですが、文章ですと放し飼いにしているとどこかに行ってしまう。細かい表現、単語などではなくて、大意というんですか、文章の感じ、雰囲気は見えるんですけど、最初は思い浮かべられても最後の方は、どこかへ行って全部残らないという。絵だと掴まえられるんですが。だから、文章を書くのには、のたうちまわって苦労しました」
 本書は五章で構成される。「章立てで読んでいると、まだアラが見えにくいんですが」と、文章についてはあくまでも謙遜が続くが、「実は好きじゃなかった」鳥獣戯画の構成の妙、「以前は無個性に見えていた」という雪舟のパイオニアぶりと恐るべき絵画空間について語られ、さらに、「初めて絵画の前で叫びたくなった作品」である岩佐又兵衛による『洛中洛外図』(舟木本)については、「単なる地図ではなく思いがけない発見のある絵」とするなど、日本画に詳しくなくても、美術書や個展で見ていた名画の魅力が鮮明に伝わってくる。
 また、「美術史なんかクソくらえ」という過激ともいえるサブタイトルがつく終章に至るまで、簡潔で愉快な作品の見立てとともに、実作者としての氏が創作する際に何を思い、何を自分に課しているのかを想像しうるフレーズも散見されるのだ。
 解説、見立てと言っても専門家による学術書のようなとっつきにくさはない。
 たとえば、狩野永徳による『洛中洛外図』(上杉本)については、「筆致を見ると、永徳が『ヒヒヒ……』とか『ヒー』とか言いながら描いている姿が目に浮かぶ」とし、河鍋暁斎の絵を前に「美味しい! 可愛い! 格好いい!」と素直すぎるほどの言葉で感懐を述べる箇所、あるいは、随所に見られる独特の比喩、近代日本画に関して「自転車に乗れない風を装うワザとらしさ」など、的を射ながら、どこかに可笑しみ――氏の作品に通底する――を含む表現が並ぶ。
 「既存の言葉なり既存の画像イメージで埋めればあっという間にできるんですけれども、どこかにある喩えや形容詞でないものを見つけて、なるべく楽をしないということを、一つの命題にしています。絵でも文でも、自分の内側から外側へのトランスレート(翻訳)を楽にしない、というのが一番気をつけているところですね」
 日本画に詳しくても、初心者でも、あるいは全く無知でも、文中に差し挟まれる該当の絵画と文章を行きつ戻りつ読み進めると、絵画を「鑑賞」するのではなく、「対話」しているかのような思いにとらわれる。そして読了後、こう思うはずだ。
 「美術館に、行ってみようか」と。
 これほど愉快な美術書なら、氏の手による別の作品を解説したものをまた読みたい、と期待してしまうが、
 「いやー、文章はしばらくもういいです(笑)」
 とのご返答。
 「絵も同じなんですが、出来た当時は、出来上がったものを、締め切りが来て仕方なく手放すみたいな感覚が大きいんです。でも、久しぶりに見ますと、あ、何だ、バタバタやったわりには、いいじゃないのという感じがあったりはしますね(笑)。ただ、そのうちもうちょっとこうできたのに、もう一押しだったのにというのが見えてきて、テンションが下がり、また久しぶりに見て、あら、まあまあじゃない、なんてことの繰り返しです」
 今年は、新作の発表も兼ねた3つの個展が控える。
 「最近はパソコン中毒に陥りつつあるので、調べ物とかこつけて、すぐ<You Tube>を見てしまう」と苦笑するが、作画に行き詰まったときは、「洗い物をして、ワイングラスを死ぬほど磨いてみたり」もしているらしい。
 「絵にサインも忘れるくらいですから、自分のことはどうでもいいんです。インタビューも顔写真ではなくて、作品を載せてほしいくらい(笑)」
 自作の前で、柔和な表情を見せる山口氏。
 絵画作品でも、あるいは別の発表形態でも、周囲を驚かせる楽しい裏切りを今後も見せ続けてくれるに違いない。


<個展情報>
そごう美術館:4月20日~5月19日
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/schedule.html
新潟市美術館へ巡回 7月27日~9月29日

群馬県立館林美術館 10月12日~2014年1月13日
(巡回展ではなく別のテーマでの個展)

 
映像化コーナー

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