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レンザブロー インタビュー

作家 中里友香さん

生者より死者に寄り添う物語を

 第2回アガサ・クリスティ賞を受賞した中里友香さんの『カンパニュラの銀翼』。18世紀の欧州と20世紀初頭の英国など、時と場所を大胆に変え、幻想的なストーリーをあやなす。ミステリでありながらも、聖書、神話、映画を例に出しながらの衒学的な展開、ゴシックの彩りを添える小道具の数々…と、旧き良き世界文学を読むような喜びに浸れる。
「難解と思われる方もいるようですが、私自身いろんな解釈が可能で、何度も読める本が好きなので、じっくり読んでいただけるように心がけました。情報量が多いのは大好きな萩尾望都の初期作品や太宰治の影響かもしれません。両者とも言葉が豊かで、特に太宰は『皮膚と心』という女性視点の作品が好きです。胸に原因不明の吹出物ができた女性が病院に行くまでを描いた短編ですが、心理描写の細やかさ、肌感覚の切り取り方の巧さに圧倒されます」

カンパニュラの銀翼 中里友香

『カンパニュラの銀翼』
早川書房/定価:1,800円(本体)+税

 

中里友香さん

【プロフィール】
中里友香(なかざと・ゆか)

アメリカで哲学を専攻。修士中退。
2007年『黒十字サナトリウム』で第9回SF新人賞(刊行は2008年)。その他、『黒猫ギムナジウム』などの作品がある。

撮影 吉成行夫

 中里さんの繊細で端的な描写の数々にも、登場人物の内面を深く想像させる力がある。
「映画好きでもあるからでしょうか。短時間で勝負する映画は、登場人物の内面や関係性をシーンひとつで表現しますよね。実は大学でアメリカに留学したのも、海外の映画を字幕なしで理解したかったからです。映画であれ漫画であれ、物語に携わりたいという気持ちがあって、ひとりで作業することが好きなので、小説に落ち着きました」
 主人公のエリオットは資産家の子息の替え玉として名門大学で学びながら、目が見えなくなった血のつながらない妹、クリスティンのもとに密かな愛情を抱いて通う。少々退廃の香りがする近親相姦的な恋愛は、他の中里作品でも繰り返し出てくるモチーフだ。
「禁断の要素が好きなのもありますが、今まで会ったことのない人同士の恋愛が始まる過程を書くことより、ずっと一緒に暮らしてきたような親密な関係の愛憎劇、愛情のやり場のない、切ない感じを表現したい。今は不倫にタブー感も減りましたし、踏みとどまって抑圧する恋愛の醍醐味を描くのに適しているのだと思います」
 替え玉のお役御免となったエリオットはクリスティンを連れ出し、すこし前に知り合ったシグモンド・ヴェルティゴという見目麗しい貴公子を頼る。シグモンドには秘密があり、ある条件が重なると周囲に必ず死者が出るという不吉な運命を背負っていた。それを知ったエリオットは、クリスティンの身にも死の危険が迫っていることに気づく。回避するためのアクロバティックな計画と、エリオットとシグモンドの間に芽生えた密かな友情が物語を躍動させる。流れゆく時間、生と死のテーマも中里作品に繰り返し現れる。
「誰もが抱く、死ぬことや老いることへの恐れが自分の中にもあって、書くことで克服しようとしているのかもしれません。子供時代に死を身近に感じる出来事があって、そのせいか幼い頃から死者が慕わしいですし、幽霊や吸血鬼を退治する側よりも、幽霊側に感情移入して、物語を書こうとしますね(笑)。留学した大学がミッションスクールで、死んだらクリスチャンは天国に行き、異教徒は地獄に落ちるって素朴に信じている人々に疑問を持ったところもあります。それからずっと生と死とか、いいかえればエロスとタナトスの行方について考えています。死について様々な形で書いて、その物語ごとに異なる、自分なりの答えを探す作業をしている気がします」
 現在は『カンパニュラの銀翼』と同じく百年ほど前の欧州を舞台にした新作を執筆している中里さん。ゴシックテイストの作品は書き続けるが新たな挑戦もしたいと目を輝かせる。
「いつか社会的な題材をテーマにしたいと考えています。例えば、戦時中の神風特攻隊と現在の中東の自爆テロを絡めた小説。別もののようですが、アメリカで宗教の授業を受けると、両方とも宗教のエキセントリックな形として例に出されるんです。でも、自爆テロは、共同体から見放された女性たちが行うことも多いらしく、宗教とひとくくりにできない。自分の中に生じた違和感を、物語として昇華させてゆきたいですね」

 
映像化コーナー

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