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レンザブロー インタビュー

作家 まはら三桃さん


 2005年に「オールドモーブな夜だから」で講談社児童文学新人賞の佳作を受賞(『カラフルな闇』と改題し刊行)。児童文学作家として本格的なスタートを切ったまはら三桃さん。弓道部を舞台に少年少女たちの成長が瑞々しい『たまごを持つように』、鷹匠を目指す女子中学生の青春の日々を紡いだ『鷹のように帆をあげて』など、一作ごとに新しい世界に挑んできた。

 「児童文学」というと、大人が読むものではないと考える人がいるかもしれない。子どものための物語なんて卒業しているよ、と。けれども、実はそんな人にこそ、まはらさんの物語は効く。ひたむきに頑張ったり、挫折してしゃがみこんだり、登場人物たちは喜びも悲しみも体いっぱいに受けとめる。彼らは子どもだから、大人のように何もなかったかのように自分をごまかすことができない。だからこそ、彼らの真っ直ぐな姿は、乾いた喉に沁みこむ水のように、心にすっと沁みこみ、潤していくのだ。まはらさんが生み出す「泉」。その始まりは、子育ての日々にあった。

鉄のしぶきがはねる まはら三桃

『鉄のしぶきがはねる』
講談社/定価:1400円(本体)+税

 

【プロフィール】
まはら三桃(まはら・みと)

1966年、福岡生まれ。2005年、「オールドモーブな夜だから」で第46回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。
受賞作は『カラフルな闇』と改題し刊行。2011年『鉄のしぶきがはねる』で第27回坪田譲治文学賞を受賞。
その他の著書に小説『最強の天使』『たまごを持つように』『鷹のように帆をあげて』、絵本『おとうさんの手』がある。鹿児島児童文学者の会「あしべ」同人。

 「結婚して専業主婦になり、子育てをしている時、本に救われたんです。皆さんそうだと思いますが、子育てをしていると自分の時間が全部奪われていくんですね。主人は忙しく、年の近い息子二人はまだ日本語も通じない(笑)。ストレスの種を集めて固めたような閉塞感でした。けれど、本を開けばそんな現実から離れて非日常の世界に連れていってくれる。物語の力って大きいなあと実感しました。それから少し経って、子どもに本を読み聞かせるようになった時、ごはんを作るように物語も作ってあげたいなと思ったんです」 その後、雑誌「家の光」が主催していた童話の賞に応募し入選。「視界が開けた」気がしたという。以来、意識的に物語を書くようになった。

 2011年に刊行した『鉄のしぶきがはねる』では第27回坪田譲治文学賞を受賞。この賞は、岡山県出身の児童文学作家・坪田譲治の名を冠し、「大人も子どもも共有できる世界を描いたすぐれた作品」に授与される。受賞作は、工業高校機械科に入学した女子・三郷 心(みさと・しん)が仲間や先輩たちとぶつかり合いながら、高校生ものづくりコンテストに挑む姿がまぶしい青春小説だ。

「小関智宏さんの『職人学』という本に出会って、旋盤職人の世界というのは緻密で奥深いものだったんだとはじめて知ったんです。それから日本のものづくりについて調べはじめて、書き上げるまでには2年かかりました。旋盤のような専門的なことって、分かりやすく説明して書いていくと、かえって分かりづらくなる。いかに専門的なことを感覚的に描くのかということに苦心しました」

 主人公の心は、祖父が興して広げた町工場・三郷金属工業で生まれ育った。けれど、数年前に工場はある事件に巻き込まれ、やがて倒産。祖父も亡くなり、工場の跡地にはもうすぐ高層マンションが建つ。小さい頃は工場が大好きだった心は、胸にぽっかりと空いた穴を埋めるように、ものづくりとは対照的なコンピューター研究部に所属。システムエンジニアを目指している。ある日、文化祭を前に人出が足りなくなったものづくり研究部、通称<もの研>の顧問・中原先生から手伝いを頼まれたことをきっかけに、頑なに避けてきた旋盤の世界に再び足を踏み入れていく。
 心が鉄の角棒からサイコロを切り出すシーンがある。

 キュルキュルーン
 切削音が響く。硬い鋼は切断され、鉄のしぶきが湧いてくる。まるで生命のはじまりみたいだ。眠っていた無機物に、新たな命が吹き込まれた合図のように、細かいしぶきがほとばしる。熱く、力強く。そのあらがえないパワーに、心は身をゆだねた。

 なんと魅力的なものづくりの描写だろう。まるでその場で一緒に旋盤に向き合っているかのよう。きっと綿密な取材を重ねたはず、と思っていたのだが――

「実は、旋盤に関しての取材をさせていただいたのは全部で4回だけなんです。外部の人が入ると邪魔になってしまうので、時間も限られていて。ただ、取材の時は一番大事なところにはあえて触れないようにしているんです。今回も旋盤を動かしていいですよって言ってくださったんですが、あえて手は出しませんでした。『たまごを持つように』で弓道を取材した時にも、練習用のゴム弓を引かせてもらったんですが、本物の弓は引かなかったんです。お願いしますって言えなくて(笑)。物語にとって一番大事な要素だったんですが。でも、体験できなかった分、それを探るような気持ちで書いていったらうまくいったので、『鉄のしぶき』からは意図的にこの方法をとっています。物語を書き終えて、到達した感覚が自分にとっての体験なのかもしれません」

 あえて体験しない。その先は物語のなかで探し出していく。その姿には小説家としての強い信念を感じるのだが、意外なことに、<体験>というキーワードは、まはらさんが小説を書いていく上で、ずっとコンプレックスだったのだという。

「専業主婦として生きてきたので、天才的な感性や圧倒的な体験を持たない自分が書き続けられるのか、ずっと不安でした。でも、この物語を書く時も、取材先を紹介してくださったのはPTA活動で一緒だったお母さんでした。自分に経験がなくても、人とのつながりのなかで、人が助けてくれる。それに気づいて、なんとかやっていけるんじゃないかと思っています」

そう微笑む瞳には、優しく強い光が宿っていた。

 
映像化コーナー

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