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レンザブロー インタビュー

作家 朝井まかてさん

「江戸のしっぽ」に残る、大切なもの

「子供の頃から植物好きで、江戸の粋な雰囲気も大好き。江戸時代の園芸が世界最高レベルだったという話を知り、好きなものふたつを融合させてデビュー作を書きました」
 『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』『ちゃんちゃら』と江戸の植木職人や庭師を題材とした時代小説を次々と発表してきた朝井まかてさん。3作目となる『すかたん』は、朝井さんの出身地である大阪(=大坂)が舞台だ。ほんのり趣を変え、野菜と恋を主役に据える。 すかたん、まったり、だんない…など、大阪の言葉が持つ、ピリリとしながらもやわらかなニュアンスは作品の大きな魅力となっている。
 主人公の千里は、武士の夫の赴任にともなって江戸から大坂に居を移すも、夫が急死。生きてゆくために老舗の青物問屋に上女中として住み込みで働くことになる。お家さん(商家の女主人)にいびられ、武家と商家のしきたりの違いなどに戸惑いながらも、大坂の活気ある街並み、食の豊かさ、季節ごとのお祭や行事に触れ、その素晴らしさに開眼する。

すかたん 朝井まかて

『すかたん』
講談社/定価:1,600円(本体)+税

 

朝井まかてさん

【プロフィール】
朝井まかて(あさい・まかて)

1959年、大阪生まれ。甲南女子大学文学部卒業。コピーライターとして広告制作会社に勤務後、独立。
2008年、第三回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー。受賞作は『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』と改題。
他の著書に、江戸の庭師一家の奮闘を描く『ちゃんちゃら』がある。

撮影/たや まりこ

「大坂の町を書こうと決めたときに、江戸の人を主人公にしたほうが面白さが出せると考えました。大坂城に勤める武士は、上役次第で妻や家族を連れてきてもよかったという記述を見つけて「いける!」と嬉しくなりましたね。時代小説はエンタメですけれども、だからこそそういった史実は踏まえておきたいと思うんです。この作品の中で起こる出来事、幻の蕪の存在や、お百姓さんたちが問屋を通さず、自分たちで野菜の販売をさせてほしいって幕府に訴状を出す話も本当にあったことなんですよ」
 青物問屋の「すかたん」息子、若旦那の清太郎は遊び人だが野菜に対する情熱はひと一倍。難波村の農家の味方となって奔走し、船場の問屋仲間をすべて敵にまわすことになる。この問題をどう解決してゆくか、そして次第に惹かれあう千里と清太郎の恋仲はどうなるのか、時に笑い、時にドキドキしながら読み進めることができる。
 大坂商人としての清太郎の振舞いが見事で、商売とは何かと深く考えさせられる場面も。
「自分たちの利益を守りたい問屋とお百姓さんの葛藤を描いていますけれど、問屋商売がいけない、と断罪したいわけではありません。スーパーは大阪が発祥なのですが、その功罪について思うところがありました。小売業が価格を決定すると、価格破壊が起きる。結果、町から小売のお店がなくなってシャッター通りも増えて、対面販売で店のオバちゃんからレシピを教えてもらう文化もなくなる。問屋も仲買も通さず直売にしたら、いろんな問題が起こります。だから単純に農民たちが勝つことを結論にするのは違うかな……と」。
 リーマンショックやユーロ不安、いつの間にかグローバル経済に左右される社会に生きているからこそ、作品世界の、地に足のついた商人の義理人情にハッとさせられる。
「この作品の取材のために、青物市場の競りを見学させていただいた経験が大きいです。そのときに立ち会ってくださった方が問屋であることにものすごく誇りを持っていらして。『僕らがいちばん大事にしているのは野菜を作ってくれる人です。その人たちとどれだけ心を通じあわせて、商品を流通させられるかが大切です』と。日々、口に入れるものだから安さは大切ですけれども、500円出してでも食べたい大根というのはやっぱり文化として大切なんですよ。農家の方がかけている手間ひまに対して、ちゃんと対価を支払うべきだという気持ちがあります。目の前の利益だけに頓着し続けると、とても大切なものを見失ってしまうような気がして」。
 清太郎と情を通わせた芸者の小万のお金のやりとりも印象的だ。意味をちゃんと考えて、美しくお金を動かしている。また「大坂商人=がめつい」って印象を払拭したかったとも。
「実は『がめつい』って大阪の言葉じゃなくて、菊田一夫さんが作った造語なんです。そんなイメージと違うものを描きたかった。「知人の女性の落語家さんから『やっと、大阪のかっこええとこを書いてくれた』と言われたのはうれしかったですね」
 これからも、江戸時代から現代に根っことしてつながっているものを探りながら時代小説を書いてゆきたいという。「幕末に日本を訪れた外国人が『なんて幸せそうな笑みを浮かべる人々なんだ』と驚いたという逸話は有名ですが、それを思うと胸の中がざわざわします。日本人はそんな精神性や文化を捨ててあっけらかんとしている一面もあるんですよね。でも、江戸のしっぽは残っていて、それを書き起こす作業をしていきたいと思います。ねえねえ、これっておもろいでしょって(笑)」

 
 

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