内容紹介内容紹介

望んで結婚したのに、どうしてこんなに苦しいのだろう——。

最も幸せな瞬間を、夫とは別の男と過ごしている翻訳者の由依。
恋人の夫の存在を意識しながら、彼女と会い続けているシェフの瑛人。
浮気で帰らない夫に、文句ばかりの母親に、反抗的な息子に、限界まで苛立っているパティシエの英美。
妻に強く惹かれながら、何をしたら彼女が幸せになるのかずっと分からない作家の桂……。

「私はモラルから引き起こされる愛情なんて欲しくない」
「男はじたばた浮気するけど、女は息するように浮気するだろ」
「誰かに猛烈に愛されたい。殺されるくらい愛されたい」

ままならない結婚生活に救いを求めてもがく男女を、圧倒的な熱量で描き切る。
芥川賞から15年。金原ひとみの新たなる代表作、誕生。

アタラクシア

アタラクシア金原ひとみ
定価:1,600円(本体)+税
発売日:2019年5月24日発売
四六判略フランス装
ISBN:978-4-08-771184-4

著者プロフィール/メッセージ著者プロフィール/メッセージ

金原ひとみ(かねはら・ひとみ)

1983年東京生まれ。
2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。
2004年、同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版されている。
2010年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。
2012年、パリへ移住。
同年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
2018年、帰国。

いつ死ぬか分からないこの世界を生きるには、あと一つだけ支えが足りない。いつもその一つを探している人たちへ。金原ひとみ

著者インタビュー著者インタビュー

「心の平穏」を求める難しさと切実さ

由依(ゆい)はパリで暮らしていたときに知り合ったフレンチ・レストランのオーナーシェフ、瑛人(えいと)とつき合っている。だが、彼女には小説家の夫、桂(けい)がいた。桂は妻に強く惹かれながら、どうしたら彼女が幸せになるのか、ずっとわからないまま過ごしてきた。そして由依の友人、真奈美(まなみ)は暴力を振るう夫との関係に疲れ、不倫でその不満を発散させている……。
『アタラクシア』は心の平穏を求めながら、欲望に振り回され、手探りで生きる人々の姿を、解像度高く描き出した長篇小説。昨年、パリから東京に戻った金原ひとみさんの東京発第一作でもある。金原さんはなぜ、いま、この日本で『アタラクシア』を生み出したのだろうか。

聞き手・構成=タカザワケンジ
撮影=三山エリ

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書評書評

何から何まで危険な、金原ひとみ最新刊『アタラクシア』 書き手:野崎歓(のざき・かん) フランス文学者

 金原ひとみの小説では、何から何まで、すべてが危険な関係を形づくる。男と女は一触即発のスリルをはらみ、夫婦も愛人同士も、親子も姉妹も、心理的には“一寸先は闇”のシチュエーションを生き抜くほかはない。
 この新作においても登場人物たちはみな、そんな試練の苛酷さに身をさらし、人知れずあえぎ声をもらしている。女たちは年齢とともに、幻滅を深め、生きづらさに打ちひしがれるかのようだ。とはいえ若くしてすでに、心身をすりへらし、息も絶え絶えのありさまといった場合もあることは、本書に登場する女子大生・枝里の「パパ活に勤しむ」日常が示すとおりである。それぞれに異なる仕事に追われ、それぞれが秘密を抱えながら、彼女らは驚くほどよく似た存在でもある。だれもが「承認欲求の塊」なのだ。
 女たちばかりではない。「女の三倍」のプライドをもつ男たちはいっそう、自分を称賛し、愛し、肯定してくれる確かなものを求める気持ちに駆られている。それが金原ワールドの住人たちを冒す怖ろしい病だ。だからこそ彼らは危険な関係に果てしなく、ずぶずぶとのめりこんでいくのである。そんな悲痛で愚かしくもある男女の内面をつぶさに伝える文章は、読者をおののかせながら、危険な陶酔感を煽り立てる。
 救いのない荒野をさまよいつつ、彼らはなおも優しさや愛に飢え、孤独の苦しみに悶えている。かつてラクロは『危険な関係』で、恋愛は快楽の源ではなく、快楽の口実でしかないと喝破した。だが金原ひとみの登場人物たちは「それ以外に道がない」というほどに、愛に対し要求が高く、絶望的なまでに真剣なのだ。
 アタラクシア(平静不動)という、古代ギリシア哲学における理想の境地を示す表題が何と皮肉なことだろう。アタラクシアなき者たちの悲痛な叫びが虚空にこだまする。

試し読み試し読み

由依

 由依さん。穏やかな声で呼びかけられて、振り返る。ごめんね、待った? という彼にううんと首を振り、差し出された左手を取る。演技のように感じられるほど自然な彼の態度に少し複雑な思いを抱きつつ、「やっぱりこっち」と言いながら手をほどき彼の腕に絡める。赤信号に立ち止まると、彼は少しだけ体をこちらに向け、掴まれている腕とは反対の手で私のおでこにかかった僅かな髪の毛をよけるように撫でた。その瞬間、満タンのインク瓶に万年筆のペン先を浸す時のような緊張が背中に一直線に走る。溢れそうなインクは表面張力でぎりぎり瓶の中に留まり、くるくると回る尻軸によってペンの中に吸い込まれその水位を僅かずつ下げていく。

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熱いエールが続々!感想の声熱いエールが続々!感想の声

他人の日常を覗き見ている背徳感に襲われながらも一気読み!
マルサン書店本部・小川誠一さん
人間は愚かで、こんなにもどうしようもないのに、なぜ「誰か」を必要とするときにはこんなにも清らかで、愛しく見えてしまうのだろう。それがすべての間違いの始まりなのかもしれない。登場人物の誰しもがほのかに憎くて、とてつもなくかなしくて、くるおしく好きでした。すばらしい新刊をありがとうございました。
三省堂書店成城店・大塚真祐子さん
なぜ、人は生きていくために誰かを必要とするのか。自分の中にあるある種の打算を白日の下にさらされるような、そんな痛みを伴う一冊。
精文館書店中島新町店・久田かおりさん
さまざまな人たちのさまざまな生きざまを、いっぺんに吸収してしまって、しばらく息ができませんでした。自分が多重人格者になったようで、妙にうろたえました。
鹿島ブックセンター・鈴木順子さん
一見、満ち足りて見える人も、皆何かしらの事情を抱えて、もがいているのだ。本書は人に見られたくない、感情の揺れを容赦なくあぶり出す。のんびり読んでいると、こう問われる。
「他人事みたいな顔をしているが、お前はいったいどうなんだ?」と。
大垣書店イオンモールKYOTO店・辻香月さん
女のエゴも、男のエゴも、こんなにエグり出す。でもエグさで読ませるだけじゃない。常にさみしさ、はかなさ、もがきが横にある。
うさぎや株式会社事業本部・髙田直樹さん
“人生を救え”というコピーは昔のイギリス映画だった。けれどもここでは、その救いが何なのか、そもそも救われたいのか、それぞれの“苦痛のない平静な状態”は訪れるのか、読み終えても、気になり続ける。
ジュンク堂書店住吉店・大橋加奈子さん
愛の深さや密度は一緒に過ごした日々に比例するわけではないし、当人同士でも全く同じにはならない。求めるものも変わるし、普遍的ではない。“この時点”での彼女らの気持ちもあと少しの何かで変わるのかもしれない。人と人とがわかり合うのはなんて難しいんだろう。それでも一緒にいたいと思えるのはきっと素晴らしい事なんだろう。たとえ自己満足だったとしても。
紀伊國屋書店仙台店・齋藤一弥さん
天国あれば地獄がある。絶頂あればどん底もある。欲望が強いほど理想は高まり波乱に充ちた人生となる。結婚とは? 幸福とは? この世に蔓延るありきたりな価値観を問い、作家・金原ひとみが到達した答えがここにある。もはや凄味しか感じられない物語だ!!
三省堂書店有楽町店・内田剛さん
いつかは真実と愛情に、ほんの少しでも手に触れることができると信じていたのに、彼女達の形のない哀しみの流れを、読みながら無力に眺めている事しかできなかった。それでも残されたこの物語に、今後も触れるのを止められないのだろう。
大盛堂書店・山本亮さん
すごくおもしろかったです! 私、もともと恋愛モノや不倫モノはあまり好きではなくて、どちらかと言うと敬遠していたジャンルなのですが、久々に読む不倫モノ。自分自身家庭を持って、夫が居て、子どもが居て……そんな立場になってから読む不倫は面白すぎました。前のめりで読みました。登場人物達は、金原さんらしく割と(いやかなり?)エキセントリックな人ですが、エキセントリックな人達によるエキセントリックな恋愛ゲーム(それはもう、神々の遊び的な)かと思いきや、これがどうして中々に生々しい!! 激しく共感したり、女友達目線でそらイカン!と突っ込みを入れたり、かと思うと苦しくて息が詰まったり、いきなりスコーン!!と爆笑してしまう箇所(俺×由依=無限大て)があったり、最後きっちりダマされててのけぞったり、とにかく感情が忙しい!! 何と言うか、そもそも、結婚とか家庭って形で人間関係を補完しようとすること自体、無理なんじゃないかとすら思ってしまいました。私も蓜島のような存在が欲しい(危険)。
明林堂書店南佐賀店・本間悠さん

アタラクシア

アタラクシア金原ひとみ
定価:1,600円(本体)+税
発売日:2019年5月24日発売
四六判略フランス装
ISBN:978-4-08-771184-4
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